無職と化したオッサンの”敬意”
投稿者:窓際族 (47)
カラサワ(仮名)はかつて、仕事ができる男として名を馳せていました。
しかも勤務先は日本人の7、8割は知っているであろう大企業。
彼は順調に出世し、いずれは年収1,000万プレイヤーになるだろうと思われていました。
ところが過労で心身を壊してからは事態が一変。
以前のように役に立てなくなったカラサワは会社を追い出されてしまいました。
家賃の高い東京の家を引き払い、実家のある長野に戻ったのですが、そこでの生活も長くは続きませんでした。
母と同居している兄夫婦とは最初はうまくやっていたのですが、兄の妻が妊娠したことが分かると、兄の妻はカラサワがいた部屋を子供部屋にすると言い出し、カラサワを追い出したのです。
しかし母の知り合いを通じて家を買う話が舞い込んできたので、幸いにもカラサワはホームレスにならずに済みました。
おまけに価格はたったの100万弱。
それは実家から車で40分程度の場所にある山あいの田舎の中古で、前の住人の残置物もあるようなものでしたが、カラサワにとってこれは渡りに船でした。
何せ無職となると賃貸の審査も通らないですからね。
さて、カラサワはこの物件にて困難な生活を覚悟していましたが、それはまったくの杞憂でした。
外装こそ古めであるものの中はリフォームされた跡があり、トイレやお風呂、キッチンもそれなりに新しい。
おまけに電気や水道、ガス周りもしっかりしていて動作に特に問題はない。
しかも(田舎基準での)大通りが遠くなく、車で数十分走れば様々なお店にアクセスできると(田舎基準では)特に不便さもありません。
しかしそこで生活していくうえでただ一つ悩みがありました。
それは知らないオジサンが時々出現するということです。
しかもこのオジサンは生きている人間ではありません。
ゆえに昼も夜も関係なく出現するうえ、唐突に出現しその意図も分からないのでカラサワにとっては家は心休まる場所にはなりませんでした。
唐突にオジサンが戸を開けて入ってきたと思ったら次の瞬間にはいなくなっていたり、夜にトイレに行くために起きると布団のそばでオジサンが正座していたりするのです。もちろん捕まえたり、話し合ったりすることもできません。
しかしそんなオジサンは、あることをするようになってから突然出なくなったといいます。
それは残置物の仏壇にご飯と水と線香を上げること。
ついでにそのそばにある神棚にもご飯と水と酒とサカキを上げているそうです。
なぜ、これをするようになってからオジサンがいなくなったのかは分かりません。
カラサワにしてみれば、不気味ではあるものの別に何か害になるわけでもないので退治しようなどという意図はなく、むしろ、古い物件ではこういったこともあるだろうから共存してかなきゃいけないんだろうなというような気持ちだったのだそうです。
そして前の住人への「敬意」を表すためにこういったことを始めたとのこと。
なお、カラサワには霊感はないし、特に何かを信仰しているというわけでもないそうです。
しかし純粋に何かのために祈るとか、何かに敬意を示すとか、そういったことが大事なのでしょうね。
なお、カラサワは今では職を得て苦労しながらもちゃんと食えてはいます。
もしかすると、これも……
カラサワさんどうぞお幸せに。
なんだかいい話です。