お届けものでぇす
投稿者:左右 (12)
短編
2021/09/03
20:28
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【1】
帰宅後、電気を点ける。
「ただいま」
独り暮らしだが、何となく言ってみたくなった。
ばちん、とブレーカーが落ちる。
バタバタバタバタッ
「おぁえいぃぃぃいぃいぃ」
真っ暗な廊下の奥から凄い音を立てて、四つん這いの何かが駆け寄ってくる。
【2】
朝。洗顔して、顔を上げる。
鏡越しに知らない女と目が合った。ぐずぐずに腐って崩れた顔でこちらを睨み付けている。
【3】
靴を履いた瞬間、右足に激痛が走った。
慌てて靴下を脱いで確かめる。爪先に傷が付いていた。
どう見ても、人間の歯形。
【4】
テレビを観ながらティッシュを取ろうとしたら、ぬめっとした物に触れた。
見ると、ソファから生えた男の顔が舌を伸ばして指を舐めていた。
【5】
「お届けものでぇす」
玄関の向こうから声がした。ドアを開けても誰もいない。
「お届けに来ましたぁ」
誰もいない。地面に干からびた蛙の死骸があった。
その日から、やたらと運が悪くなる。
【6】
祖母の葬儀以降、菩提寺の墓には近寄っていない。
墓石の下から「暗い」「暗いなぁ」「暗いよ」「出たい」「出して」と大勢の声が聞こえてくるからだ。
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