全員が目を開けたまま、私を見上げていた。
その中に、あの運転手がいた。
運転手は水底に立ち、私の足首をつかんでいた。帽子の下から水草のような髪を揺らし、笑っていた。
「やっと、次が来た」
その声が水の中ではっきりと聞こえた。
私は必死に足を振り払おうとした。しかし、今度は別の手が伸びてきた。次々と手首や服をつかまれ、暗い水底へ引きずり込まれていく。
息が続かない。
視界が黒く染まる直前、水面に浮かぶタクシーの後部座席が見えた。
そこには、誰かが座っていた。
私と同じ顔をした何かが、窓越しにこちらを見下ろしていた。
再び目を覚ますと、私は病院のベッドに横たわっていた。
家族と警察官が、驚いた顔で私を囲んでいる。
私は湖で釣りをしていた男性に発見されたらしい。岸辺に倒れており、全身がびしょ濡れだったという。
警察官は戸惑いながら言った。
「あなた、三日間も行方不明だったんですよ」
私は記憶を頼りに、乗ったタクシーの特徴を伝えた。
古びた車体。帽子を深くかぶった痩せた運転手。そして、湖へ続く、人のいない広い道。
話を聞いていた年配の警察官の顔色が変わった。
彼によれば、二十年前、その湖へタクシーが転落する事故があったという。深夜、運転手と乗客を乗せたままガードレールを突き破り、湖に沈んだ。
車も遺体も、見つかっていない。
「でも、おかしいですね」
警察官は首をかしげた。
「あなたが乗ったという駅前の防犯カメラを確認しましたが、タクシーは一台も映っていませんでした」
そう言って、彼は映像を見せてくれた。
画面の中で、私は誰もいないロータリーに立っている。
やがて、何もない空間に向かって頭を下げた。
見えないドアを開けるように手を伸ばし、存在しない車へ乗り込むような姿勢を取る。
そして、その場からふっと消えた。
映像を見ていると、病室の外からタイヤが濡れた道路を走る音が聞こえた。
こんな建物の中で、聞こえるはずがない。




























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