Tホテル
投稿者:砂の唄 (11)
H市で学生時代を過ごした人間なら一度はTホテルの噂について聞いたことがあるかもしれない。とはいえ、知らない、何それ?という人が大半だと思う。記憶に残るほどインパクトのある話ではないからだ。噂について説明すると
Y村から山へ向かう道路の途中にTホテルという名前の、既に廃墟となったホテルがある。そこでは数々の怪現象が起こるという。以下に内容の一例を示すと
・深夜、荒れ果てたフロントに首のない男の幽霊が立っている
・5階の一室にはお札が大量に貼ってあり、その札を持ち帰るとよくないことが起こる
・封鎖された地下があり、そこでは何者かの足音が聞こえる
・駐車場で子供のようなものに追いかけられる
・1階の非常扉付近で女の泣いている声が聞こえる
このほかにも色々なパターンがある。正直、各々が好き勝手に脚色して広まってしまった、ありきたりな怪談話という印象を受けるだろう。
だが、このTホテルは実在する建物なのである。
当然Y村というのも存在し、かつてはスキー場で賑わっていたという。H市の市民なら大抵は知っている場所である。
高校生や大学生には肝試しと称してこのTホテルへ向かうグループが必ずでてくる。
そして彼らはTホテルに行ってきたことを武勇伝のように話して回るのである。私が高校生の時、Tホテルに行ったという友人から話を聞いたことがある。
その友人は「ただの大きな廃墟だよ。幽霊なんか見なかった」と語っていた。
前置きが長くなってしまったが、これから話す出来事はこのTホテルに関連して起こったことである。
この話を聞いてTホテルへ向かう者がいるとしても別に止めはしない。Tホテルにはあなたの望むものは待っていない。あそこにはどうしようもない哀しみがあるだけだ。
事の始まりはAであった。Aは私と同じ大学に通い、同じサークルに加入している友人である。
「なぁお前Tホテルに行ったことあるか?」Aが唐突に聞いてきた。
「いいや、ない」私はTホテルを知っていても行ったことはなかった。
「そうか…ないかー」Aは残念そうに言った。
Aが言うにはAの家でこの前法事があり、親戚一同が集まり食事をしていた。そこでTホテルの話が出てきた。従兄の1人が「昔行ったことがあるけど、何もなかったよ」という話をしたそうだ。周りは本当かよ?とか、怖くて帰ってきたんじゃないか?など囃し立て、Tホテルの話題で盛り上がっていた。
だが、隣に座っていた叔父さんだけはくすりとも笑わず、小声で一言こうつぶやいていた。「本当に恐ろしいのはTホテルのほうじゃない…」
その叔父さんが帰るときに、Aはさっき呟いていたことについて聞いてみた。すると、叔父さんは何でそのことを知っている?と驚いたそうだ。叔父さんも結構酒飲んでたから覚えてないのかな?位にAは思っていた。
「あの建物…いや、Y村にも近づかないほうがいい」叔父さんはそれだけ言い残して帰ってしまった。
Aは叔父さんが帰り際に話した「あの建物」という言葉が引っ掛かったようだった。あの建物がTホテルを指すなら、わざわざぼかして言う必要もないはずだ。
そしてAは「あの建物」が叔父さんの言っていた「本当に恐ろしいもの」を指すのではないかと考え、恐らくTホテルの近くに別の心霊スポットがあるはずだと思い至ったそうだ。「Tホテルのほうじゃない」ということは別館かなんか別の建物が近くにあるのではないか、と。
「で、実際に調べてみたいわけね」私が半ば呆れながらそういうと、Aは力強くうなずいた。
「もうBとCには一緒に行こうって声をかけてある。2人とも行きたいってさ」BとCは学部こそ違うが同じ講義を受けていてそれから仲良くなった同学年の2人だ。
2人とも県外出身だからTホテルのことなんて知らないだろう?と聞くと、有名な心霊スポットだとだけ話したそうだ。ちなみにAと私はH市で生まれH市で育った地元の人間である。BとCが行くなら私だけ行かないというわけにもいかない。
「行ってもいいけど、車は?そもそも場所わかるの?」
「車は俺が父親のを借りるし、場所は従兄の兄ちゃんに聞くから大丈夫」そこから話はとんとん拍子に進んで、夏休み中にBとCが帰省する前に行こうと決まった。
面白かったです
Tホテル、何処だろう。気になる。
ってことは「私」が見た子供って…