もう引っ越したから、会うことはないと思うんだけど、そいつは輪郭がぼんやりとしていて――いわゆる幽霊というやつだった。
初めて会った日のことは今でもはっきりと覚えている。
電気を消して、布団に入って、あとはもう寝るだけって時に声が聞こえてきた。
「なあ、俺だよ、俺。覚えてるだろ?」
真っ暗なのにそいつの姿だけは浮き上がって見えたし、離れたところにいるのに声は耳元で聞こえた。
「覚えてるだろ?」と言われても、俺の友人にはまだ死んだやつはいないし、幽霊に知り合いなんてもちろんいない。
俺はなんとか「え……誰?」と震えた声を絞り出した。
そいつは「そうだよ、ダレだよ。そんなに震えるなよ、ダレは怖くないって証明してやるから」って言ってたけど、幽霊の声が耳元で聞こえるだけで既に怖かった。
そして、「人間と熊、遭遇して怖いのは?」なんて謎の質問をしてきた。
明らかに熊の方が怖いんだけど、質問の意図が分からなくて答えられなかった。
そいつが何を考えてたかなんて分からないけど、「そう、熊だよな」って勝手に納得してた。
続けて「熊と熊の幽霊なら?」って、さらに意味の分からない質問。
「そう、生きてる熊なんだよ。
――ってことはさ、人間の幽霊であるダレは一番怖くないだろ?
また来るよ、じゃあな」なんて言って消えていった。
ってか、ダレは名前じゃねーよ。
そいつはその後もたまに現れては、わけのわからない話を一方的に話して消えた。
耳元で聞こえる声に慣れることはなかったけど、それ以外に害はなかった。
――いや、頭がおかしくなりそうだったな。
生きてる熊は怖いけど、意味不明な幽霊も怖いに決まってるだろ。
























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