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vortexさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

[実話]帰れないタクシー
短編 2026/08/06 19:57 180view

「置いていかないで」

「帰りたい」

低く湿った声が、少しずつ重なっていく。

恐怖に耐えきれず、私は両手で耳を塞いだ。目を固く閉じ、座席にうずくまる。

すると、すぐ隣から男の声がした。

「お客さん。ここで降りますか?」

恐る恐る目を開ける。

暗い窓ガラスに、運転手の顔が映っていた。

けれど、前の座席には誰もいない。

窓に映った運転手だけが、私の隣に座っているかのように顔を寄せていた。その肌は水にふやけ、両目から黒い水を流している。

「ここで降りますか?」

男はもう一度尋ねた。

私は悲鳴を上げた。

そこで意識が途切れた。

次に目を覚ましたとき、タクシーは止まっていた。

車内は静まり返っている。運転席にはやはり誰もいない。

窓の外には、深い霧に包まれた湖が広がっていた。水面は鏡のように静かで、月も星も映していない。

車は湖のほとりに停車しているように見えた。

私は震える手でドアに触れた。

今度は、簡単に開いた。

冷たい空気が車内へ流れ込む。あの不気味な道から逃れたい一心で、私は慎重に片足を外へ出した。

地面があると思った。

しかし、足は何にも触れなかった。

その瞬間、私はようやく気づいた。

タクシーは湖のほとりに止まっていたのではない。

湖の真ん中に、浮かんでいたのだ。

体が水中へ落ちる。

凍りつくような水が全身を包み、息ができなくなった。水面へ戻ろうともがくが、何かが足首をつかんでいる。

水の底を見ると、数え切れないほどの人々が沈んでいた。

男も女も、老人も子どももいる。

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