俺はさすがに度肝を抜かれた。めくら撃ちの個別株買い? 気違い沙汰としかいいようがない。
「嘘やろ、そんなんでもうかるわけない」
「種銭は3万からで、信用取引で一点買いや」これだけでも十分衝撃的な発言だったのに、彼はさらに追い打ちをかけてきた。小声で「……2年で億り人」
ここでようやく、脳内に警戒アラートが鳴り響き始めた。これは与太話だぞ、そろそろ元本保証で年率20パーセントだの爆益確実の株情報だのが飛び出すぞ――。
予想に反してそのどちらも飛び出さなかった。川合君はしみじみと〈奇跡の2年〉の波瀾万丈さを語ってくれた。
――そう、語ってくれたんだけれども、読者に便宜を図る意味で割愛。投資のわかる人なら面白い内容だったと思うけど、そんなのは少数派だろうからね。要点を箇条書きにしておく。
・クレジットカードのキャッシング(!)、証券会社の信用建て(!!)、消費者金融からの借り入れ(!!!)の3本立てで種銭を200万円ほど調達。
・〈会社四季報〉から適当に選んだ株に全額ブッパ。
・最低2~3倍、最高15倍の大当たりを叩き出しまくった。
これがどれほど途方もないことか、投資未経験の読者にはわからないかもしれないね。3倍株ですら数年単位で見ても、数十社くらいしか出てこない。日本の上場企業は4,000社くらいだから、1回当てるだけでもう1~3パーセントのレンジだ。
川合君は常勝してたと豪語したから、それぞれが排反事象として計算すると連続で勝てる確率はガクッと下がる。仮に3倍株を5回連続で当てるとしても、0.03の5乗≒0.00002パーセント。ちなみにこれは宝くじの1等を当てるくらいの低確率ね。
* * *
「で、結局なんの話だっけ」
川合君は例の霊感商品を見せびらかしてきた。
「ええと、要するにそのコインのおかげで大勝ちできたってこと?」
「その通り。2年で億り人やぞ」
「仮にそれのおかげで億り人になれたとして、じゃあなんで藤堂も川合君もそれを手放そうとするわけ」
旧友の様子が一変した。伏し目がちになり、どんよりと暗く打ち沈んでいく。
「だよね、そう思うよね」
「持っとるだけで幸せになれるんやろ。人に売ろうとする意味がわからん」
「なあたっちゃん。よく人の人生は幸せも不幸もトントンになるって聞くやん。あれはホントにそうなんやないかな」
表情を見る限り、なにかの冗談とかではなく大マジメのようだった。
「なんや急に。川合君そんな哲学的なこと話すキャラと違うやろ」
「もしそうやとしたら」俺のいじりは無視された。いじられキャラとして愛された川合君としては異例の反応だった。「僕、ヤバくないかな」
ここでやっと、旧友が最初に言っていた在庫だの前借りだのという思わせぶりな言葉の意味がわかった。
「――あのコインは幸せを呼び寄せるんやなくて、これから起こるプラスのできごとを前倒しでかき集めてくるって言いたいんか」
彼は幽かにうなずいた。
「藤ちゃんからこれ、買ったって言ったやろ。僕が会ったとき、あいつ乞食みたいなかっこうやった。気づくのが遅かったんやろうね」
「で、川合君は在庫を使い切る前に気づいたわけね」
「なあたっちゃん。お願いや、これ買ってくれ。そうやないと僕――」
友だちは語尾を濁した。幸せを全部使い切ったあとに残るのは不幸の大洪水のはずだ。幸せにはいろんな形があるけど、人生において最大の不幸は誰しも同じだ。それは〈死〉である。























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