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呪い・祟り

はなさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

境 界 を 越 え る 厄 災 : 瀬 戸 内 の 峠 道
短編 2026/09/06 20:42 37view

瀬戸内の海沿いへと抜ける、盆地の端に位置するその峠道は、街灯の乏しい鬱蒼とした山影を縫うように続いています。

昔、町へ出るのに険しい山越えを強いられていた民を見かね、私財をすべて投げ打ってこの険路を切り拓いた篤志家がいました。人々の祈りと感謝によって穿たれた道でしたが、時代が下り車の往来が増えるにつれ、鋭い急カーブでは痛ましい事故が幾度となく繰り返されるようになりました。頂の木陰には、道半ばで命を落とした夫婦を悼む小さな石の祠がひっそりと佇み、近年までその前を竹箒で掃き清め、散らかったゴミを黙々と拾い集める一人の老人の姿が見られたといいます。

ある雨の降りしきる深夜、他所から通りかかった一台の車が、濡れたアスファルトを滑るように走っていました。ハンドルを握る男は、人目のない闇夜を幸いと、窓をわずかに開けると、飲み終えた空き缶や弁当殻を無造作に谷側へと投げ捨てました。

――カサ、カラン。

雨音に混じって硬いものが路面を打った直後、車内の空気が一変しました。

カーステレオから突如「ザザッ……」と激しい砂嵐のようなノイズが溢れ出し、冷房もつけていないのに吐く息が白くなるほどの冷気が足元から這い上がってきたのです。

気味悪さにアクセルを踏み込もうとした瞬間、後部座席から、濡れた落ち葉を竹箒で掃き集めるような音が響きました。

シャッ、シャッ、シャッ……

バックミラーを覗き込んだ男は息を呑みました。

暗い鏡面の向こう、後部座席の影に、泥にまみれた老人が座り、濁った眼窩でじっと男を見据えていたのです。

「……掃いても、掃いても、汚される」

しゃがれた声が落ちた途端、カーブの先に佇む石祠の前に、雨に打たれる男女の影が浮かび上がりました。二人は車を睨みつけ、凍りつくような声で男の頭の中に直接告げました。

「この道は、人の情けと無念が埋もれた場所。

恩ある道を穢した罪は、決してその場では終わらぬ。

捨てたもの一つにつき、己の身に四つの災いが降りかかる。

詫びの道はただ一つ。峠を無事に下り終えたのち、己が暮らす町で、誰にも見られず四倍のゴミを拾い集めて山へ祈れ。

さもなくば、四つの厄災がお前の日常をすべて奪い去る」

異様な冷気とノイズは、峠を下り切って街の明かりが見えた瞬間にふつりと消え去りました。

男は「ただの幻覚だ」と自分に言い聞かせ、その言葉を無視しました。

しかし、その翌日から奇怪な災いが立て続けに男を襲います。

一日目、自宅の車庫で車のタイヤが鋭利な刃物で裂かれたように四輪ともパンク。

二日目、理由のわからない高熱に侵され、四日四晩うなされ続ける。

三日目、仕事先で立て続けに四件の理不尽な大トラブルに見舞われ、職を追われる寸前にまで追い詰められました。

「あと一つ、何かが起きれば命がない」

恐怖に震え上がった男は、あの夜の警告を思い出し、夜明け前の自宅周辺へ飛び出しました。泣きながら這いつくばり、町中の散乱したゴミを袋いっぱいに四つ、八つ、十二つと拾い集め、峠のある方角へ向かって何度も頭を擦り付けて許しを乞うたといいます。

それ以来、あの峠道をよく知る者の間では、密かにこんな戒めが語り継がれています。

「あの峠でゴミを捨てるな。厄災は車に乗ったまま家までついてくる」

峠の神仏と先人の霊は、その場で命を奪うことはしません。けれど、道を穢した不届き者には、峠を下りた後の日常において、きっかり四倍の報いを受けさせるのです。

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