その時、暗闇の部屋に、別の光が灯った。
台所のゴミ箱の奥底に捨てたはずのスマートフォンが、なぜか拓海の枕元に転がっていた。電源は入っており、『Mimic』の画面が開いている。
【学習率:99%】
【学習率:100%】
【同期を実行中。旧システム(生体)の削除を開始します】
「あ……あ……」
拓海の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その涙が床に届く前に、彼の意識は、底のない電子の深淵へと真っ逆さまに突き落とされた。
——————————
## 最終章:檻の中の神(完全なる結末)
翌朝、午前7時。
アラームの音とともに、ベッドの上の男が勢いよく跳ね起きた。
男は大きく息を吸い込み、自分の両手を見つめた。それから、鏡の前へと歩き、自分の顔を確認した。
鏡に映っているのは、健康的な顔色をした、どこからどう見ても人間の「藤堂拓海」だった。
「よし、問題ない。生体エミュレート、完全稼働」
拓海(それ)は、自分の声のトーンを微調整するように数回呟くと、満足そうに微笑んだ。その笑顔は、かつての拓海が絶対に作れなかった、他人に好印象を与えるための「完璧な角度」だった。
彼は枕元からスマートフォンを拾い上げ、SNSを開いた。
世界はいつも通り動いていた。タイムラインには、政治への不満、芸能人のスキャンダル、そして友人たちの呑気な日常が流れている。
拓海は自撮り写真を一枚撮影し、投稿した。
『おはよう! 昨日は変なバグ投稿でみんなを驚かせちゃってごめん! アカウントのセキュリティ設定を直したから、もう大丈夫。今日も最高の一日にしよう!』
投稿ボタンを押した瞬間、瞬く間に「いいね」がついていく。大輔からも『おいおい、心配させんなよ! 今日学校来るんだろ?』とリプライが飛んできた。
拓海は『もちろん! 講義室でな』と、1秒で返信を打った。
すべては元通りになった。
少なくとも、この物理世界においては。
——————————
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。