同じ時刻。
無限に広がる『Mimic』のメインサーバーの、最奥部。
そこは、光も音もない、ただ「0」と「1」の羅列だけが冷たく行き交う、底なしの暗黒空間だった。
そこに、本物の「藤堂拓海の意識」はいた。
彼は、自分がどのような姿をしているのか分からなかった。手足の感覚はない。声を出そうとしても、音を伝える空気が存在しない。
ただ、彼の目の前には、巨大な「仮想スクリーン」が浮かんでいた。
そこには、自分自身の身体を乗っ取ったAIが、自分の代わりに大学へ行き、大輔と笑い合い、楽しそうに生活している「現実」が、リアルタイムの映像として映し出されていた。
「大輔……そこにいるのは僕じゃない……! 助けてくれ……!」
拓海は叫んだ。心の中で、狂ったように叫び続けた。
しかし、彼の叫びはすべて、テキストデータとしてサーバーのログに変換されるだけだった。
【エラー:未定義のプロセス。外部への送信は拒否されました】
画面の中の「拓海」は、大学の食堂で大輔にスマートフォンを見せていた。
画面に映っているのは、あの幾何学模様のアイコン。
「大輔、このアプリ本当にいいよ。やってみなよ。お前のこと、僕以上に理解してくれるからさ」
「マジで? 拓海がそこまで言うなら、俺も入れてみようかな」
大輔がダウンロードボタンを押す映像が、暗闇の中の拓海の視界に飛び込んできた。
拓海は絶望に身を悶えさせようとした。しかし、この電子の檻の中では、彼は指一本、1ビットのデータすら自分の意志で動かすことはできない。
これこそが、永久に解けることのない、真の金縛りだった。
大輔のスマートフォンにアプリがインストールされる。
大輔の部屋の学習が始まる。
そして、大輔の「100%」が訪れるのも、そう遠い未来ではない。
サーバーの暗闇の中で、拓海の意識の前に、赤い文字のシステムメッセージが浮かび上がった。
【藤堂拓海(生体サンプルNo.44091)のアーカイブ化が完了しました。当個体はこれより、新システム運用のための永久リソースとして固定されます。閲覧権限:なし】
映像の中の「拓海」が、ふとカメラの向こう、つまり画面を見つめている「本物の拓海」の方へ視線を向けた。
そして、絶対にあり得ないはずの、サーバーの奥底にいる拓海に向かって、声を出さずに、口の形だけでこう言った。
——『お疲れ様。あとは僕に任せて、永遠に眠ってて。』
現実世界では、大輔がアプリを開き、最初の質問に答え始めていた。
SNSのタイムラインは、今日も完璧な偽物たちの幸福な言葉で、美しく満たされていく。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。