三 渕に沈んだのは
彼———淵辺修一———が交番から逃げ出した。私は急いで追いかけたが、一瞬にして見失ってしまった。
「…あいつ、どこいった…?」
辺りを見渡していると、とある歌が聞こえてきた。
「やしろのふちをー、のぞくならー…」
彼が先ほど歌っていた歌だ。でも声からするに相手は子供のようだ。しかも、一人じゃない。
「とりいでまろんで、ずでんどうー…」
少しずつ声は近づいてくる。
「———きーつねーにばかさーれたー」
背後で声がして振り返る。そこには、赤い着物にキツネのお面を着けた女の子がいた。
「き、君、なんでこんな遅い時間に…」
「ふちにしずんだの…」
そしてその子は手で不思議な形を組んで、真ん中の隙間から覗いてきた。
「…だーあれ」
瞬きをした瞬間、僕は見たことのない鳥居の前に居た。
四 だーあれ
私の息子が、行方不明になった。あれは修一が八歳の夏の時の話。修一は昼の十二時頃、公園に虫取りへ一人で出掛けて行った。「昼の二時には帰ってくる」と言っていたし、家のすぐ近くだった為そこまで心配していなかった。けれど、二時を過ぎても修一は帰ってこなかった。心配になってきて、私は修一が居る筈の公園へ訪れた。が、修一はどこにも居なかった。警察にも行方不明届けを出した。が、一ヶ月後、修一は何もなかったかのように戻ってきた。家の近くの公園の木の影で倒れていたのを近所の人が発見したらしい。
けれど、修一は記憶を失っていた。行方不明になる前の事を。家に戻って来た時、修一は私に向かって「だれ?」と言った。私は行方不明になっていた一ヶ月間何をしてたの、と聞くと
「…僕はあの村に住んでるの。神社で、近所の子達と「覘き唄」をして遊んだよ。」
「のぞき…歌…?神社は、何神社っていうの?」
「渕覘社󠄁」
修一はそれから、聞いた事の無い童歌を歌うようになった。どこか不気味な、童歌。そして、「あの村へ帰りたい」としょっちゅう言った。
あれから修一は成長していくにつれ、「あの村に帰りたい」と言う事は無くなった。あの神社の事も、忘れたようだ。けれど、今でもたまにあの不気味な童歌を口遊む。
修一は去年から、在宅勤務を始めた。一人暮らしはせず、自室に籠って仕事をしていた。
そんなある日。私が朝起きると修一は家に居なくなっていた。少し出掛けているのだろうかと、私は修一を待った。けれども一週間過ぎても帰ってこない。部屋を見た所、物は減っていない為、家を出た訳では無いようだ。部屋の中に修一が普段使っている鞄があったから、開けてみた。
「…財布?」
何故か財布が入っていた。財布を持っていないとすれば、一体どこに行ったと言うのだろう。そこで初めて修一が失踪したと気付いた。
そういえば。
修一は最近、神社の写真をよく撮っていた。もしかしたら、修一はあの神社———渕覘社󠄁———に居るのかもしれない。
私は毎日、あの神社を朝早くから夜遅く迄探し回った。毎日、毎日、探し回った。
私はまた、あの神社、そして修一を探しに行く。

























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