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妖怪・風習・伝奇

プルプル布顚🍮さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

また、あの神社を探して
長編 2026/05/23 12:03 69view

一 社󠄁の渕を覘くなら

 今日、僕は買い物をした帰りに神社へお参りする事にした。鳥居の上に「渕覘社󠄁(ふちのぞき やしろ)」と書かれている。何となく神秘的に見えて、鳥居の写真を撮る。
 鳥居を跨いだ時、僕は転んだ。きっと今日は良い日になる。階段を上がっている時、不意に誰かの気配がして振り返った。きっと今週は良い一週間になる。そして僕は参拝をする時、間違えて本坪鈴を最後に鳴らした。きっと今年は良い一年になる。
 参拝を終えた時、近くで子供達が童歌で遊んでいた。僕の地元で有名な、「覘き唄」という遊びだ。

社󠄁の渕を覘くなら(やしろの ふちを のぞく なら)

鳥居で転んで ずでんどう(とりいで まろんで ずでんどう)

階見返りゃ くるりこてん(きざはし みかえりゃ くるりこてん)

御鈴を終いに がらんじゃら(おすずを しまいに がらんじゃら)

狐に化かされた(きつねに ばかされた)

渕に沈んだの だーあれ(ふちに しずんだの だーあれ)

 この遊びのルールは簡単。まず鬼が狐の面を被り、しゃがんで目を瞑る。その鬼を子が囲む。「社󠄁の渕を覘くなら」の所で子が鬼から五歩離れる。「ずでんどう・くるりこてん・がらんじゃら」に合わせて子が五歩、縦横(斜めは禁止)自由に移動する。この時、五歩全て同じ方向に動くのは駄目である。「狐に化かされた」の所で子が三歩鬼に近付き、鬼は目を瞑ったまま立ち上がり好きな方向を向く。最後に「渕に沈んだの だーあれ」で鬼が目を瞑ったまま三歩進む。その時一番鬼に近かった子が負けである。
 確かこの童歌は、昔この村で神様へ生贄を捧げる者を選ぶ時に作られたとか何とか。遊んでいる子供達を見て、何だか微笑ましい気持ちになった。
 神社を出ようとした時、覘き唄の鬼をしていた子が僕に寄って来た。
「どうしたの?」
僕はそう問い掛けたが、狐の面を被ったその子は何も言わない。
「僕に参加してほしいのかい?覘き唄。」
すると、その子は黙ったまま手を不思議な形を組んで、呪文のような言葉を唱えた。
「…けしやうの者か、ましやうの者か、正体を現せ」
その瞬間、僕の意識は途切れた。

二 狐に化かされた

 「…丈夫ですか?意識はありますか?」
気が付くと僕は警察官に揺さぶられていた。
「あ…はい、意識はあります。」

「君、深夜になんでこんなとこにいるんだ。」
えっ、と思って辺りを見渡すと、空は真っ暗で僕は歩道橋の上で仰向けになっているようだった。
「えっと…ここはどこですか?」
「どこって、ここは◯◯区の歩道橋だよ」
「◯◯区?えっと、ここは何県なんですか」
「ここは東京都ですよ。」
東京都?あまり聞き慣れない場所だ。
「君、どこに住んでるの?住所と名前は?」
「…あれ」
何故か、住所も名前も思い出せなかった。
「すみません。なんか…思い出せないです」
「ええ?じゃあ、家の近くにある特徴的な建物とか判んない?」
「…あ。僕の家の近くに『渕覘社󠄁』という神社があります。」
「渕覘社󠄁?そんなの聞いた事ないけど。ちょっと待っててください。」
そう言うと警察官はどこかに連絡をした。数分後、
「ほんとに渕覘社󠄁で合ってるの?」
「はい。間違い無いです。僕の地元では有名な神社ですので。丁度その神社に参拝に行ってきた帰りで…」
「調べたけど、そんな神社存在しないよ。出鱈目言ってる?」
「違いますよ!今日丁度写真も撮って来たんですから」
「じゃあ見せてもらえる?」
「無理ですよ。」
「何で?写真撮ったんでしょ?」
「いやだって、まだ現像してませんから」

そう言って僕はポケットの中の使い捨てカメラを見せる。
「あぁ、スマホで撮ったんじゃないのね」
その後僕は警察官と一緒に交番へと向かった。
「…あああーーー!!」
交番に入るなり、別の警察官が目を見開いて叫んだ。
「この人四ヶ月前に行方不明になった『淵辺 修一』じゃないか!!」
「…あー!だから何となく見覚えがあったのか!」
「…えぇ…?」
僕が四ヶ月行方不明?可怪しい。僕は数年間、あの村で暮らしていたというのに。
 そこで僕は思い出した。あの覘き唄の鬼の子が、僕に何か呪文を唱えていたのを。そうだ。あの子が僕を異世界へ飛ばしたのだ。きっとそうに違いない。ああ、早くあの村に帰りたい。
「…やしろの…渕を…のぞく、なら…鳥居で、まろんで…ずでんどう…」
何でかわからないけど、涙が頬を伝う。
「…え、何?」
「…きざはし、見返りゃ…くるり、こてん…御鈴をしまいに、がらんじゃら…」
僕は無意識に、あの唄を唄っていた。
「きー…つねーに、化かされた…渕に沈んだの、だーあれ」
警察官は眉間に皺を寄せて僕の方を見ていた。
「…取り敢えず、淵辺さん。親御さんに連絡す…」
「やめてください!!」
何故か、それだけは駄目だと思った。
「僕は…あの村に帰りたいです。着物を着てはしゃいでいる子供や近所の優しい方のいる、あの村に。さっきの唄、あの村で有名な童歌なんです。知りませんか?『覘き唄』。」
「…いや、聞いた事ないね。」
「…もういいです。ありがとうございました。」
「あ、ちょっ」
 僕は交番を出て走り出した。あの村を、あの神社を探して。どれだけ時間を掛けてでも、僕はまた、あの神社を探すだろう。

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