一、路傍の拾い物
其は、江戸も中頃のことなり。
とある五街道より分かれたる脇往還(わきおうかん)を、一人の行商人が歩みおり。日は傾き、秋の風の冷たく吹き抜ける夕暮れ時、道端の枯れ草の中に、一節の竹筒の落ちているを見つけたり。
商人が之を拾い上げれば、中より「チャリ、チャリ」と、銭の触れ合う確かな音が響く。見れば蓋もなく、中は暗がりに沈みて見えず。商人は「これ幸い」と打ち割って確かめんとしたが、宿場までの道のりは遠く、足早に先を急がねばならぬ身なれば、其のまま懐へ捩じ込み、旅籠へと急ぎぬ。
二、旅籠の夜話
夜、ようやく辿り着きし旅籠にて、商人は膳を囲む主や他の客共に向かいて、昼間の出来事を語りぬ。
「道すがら、斯様な竹筒を拾いしが、心当たりのある者は居らぬか」
と。
主も客も首を傾げ、誰も其の主を知る者はなし。
「もしや、どこぞの長者が落としたものか」
「いや、狐の贈り物かもしれぬ」
などと酒の肴に噂する内、商人は心地よく酔い、竹筒を枕元に置きて深い眠りに落ちたり。
三、盗人の業
然るに、其の座の隅に、欲深き盗人の男、紛れ込みて居りし。
男は商人の話を耳にするや、「中には金子が詰まっているに違いない」と目を爛々と輝かせ、皆が寝静まりし丑三つ時、闇に紛れて商人の枕元へ忍び寄りぬ。
男は音もなく竹筒を盗み出すと、足音を忍ばせて旅籠を抜け出し、街道の闇へと消え去りぬ。
四、街道の骸と捨銭
翌朝、街道を行く者共が、道端に倒れ伏したる男の骸を見つけて肝を潰しぬ。
其は昨夜の盗人なり。外傷は一つもなけれど、其の死に顔は何か言い知れぬ恐怖に凍りついた如く歪み、傍らには無残に割られた空の竹筒が転がりてあり。不思議なことに、中にあるはずの小銭は一文も残っておらず、ただ虚空が其処に口を開けておりき。
騒ぎを聞きつけた近くの寺の住職、骸の前にて数珠を繰り、静かにこう語りぬ。
「此の竹筒に納められしは、おそらく『捨て銭(すてぜに)』であったろう。身に降りかかる病や災厄、あるいは死の縁を銭に託し、道端へ打ち捨てる秘法なり。其を拾う者は災厄を肩代わりし、無理に暴く者は、銭に封じられた厄災を一身に浴びることとなる」
盗人の男、銭を盗みしつもりが、他人の「死の厄」を盗んでしもうたか。
以来、其の街道にて竹筒を見かける者あれど、手を触れる者は一人として居らざりきという。
(編注)
古来、道端に落ちている物には「厄」が宿るとされ、特に中身の知れぬ器や筒の類は、神仏への奉納か、さもなくば不浄な呪いの一種として忌み嫌われたるものなり。
























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