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不思議体験

志那羽岩子さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ボタンが足りない
短編 2026/03/04 07:28 280view

筆跡が同じだった。

地下の仕立て屋の返事と、初代支配人の字が、完全に一致していた。

その人は、もう七十年以上前に亡くなっている。

私はそのあとも数年働き、結局その式場を辞めた。

だが、最後の夜。

制服を返却するために更衣室でボタンを外していたとき、ふと気づいた。

制服の真鍮ボタンが、一つ足りない。

落とした覚えはない。

気味が悪くなり、館内を探した。
パントリーの作業台の上に、それはあった。

私の制服のボタンだった。

その横に、紙片が置いてあった。

万年筆の文字で、こう書かれていた。

「足りない」

意味が分からなかった。

だがその夜、最後に館内を出る前、私はダストシュートの前に立った。

中を覗き込んだ。

暗くて底は見えない。

その時、下から声がした。

「もう一つ」

驚いて身を引いた瞬間、背後で扉が静かに閉まる音がした。

振り向いた。

誰もいない。

だが背中のすぐ後ろで、古いインクの匂いがした。

耳元で、声がした。

「いつも落ちてくるのを待っているのは、こちらだけだと思っていた?」

私はそのまま館を飛び出した。

今でも、たまに元同僚と会うことがある。
あのダストシュートの習慣は、まだ続いているらしい。

変わらぬ筆跡で、作業は今も終わっているという。

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コメント(1)
  • 《解説》
    ※いみがわからない人だけよんでください。
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    この言葉の意味は、こういうことだ。

    「次は、後ろを向いている人」

    これは、
    もうボタンでは足りないから、次は人が必要だ
    という意味になる。

    最初、式場の人たちは「地下の仕立て屋」に仕事を頼むとき、
    お礼として 真鍮のボタン を置いていた。

    クロスをきれいにしたり、グラスを直したりしてもらったお礼だ。

    でも長いあいだ、たくさんの仕事を頼みすぎて、
    ボタンだけでは お礼が足りなくなってしまった 。

    だから仕立て屋は言った。

    「まだ足りない」

    そして続けてこう書いた。

    「次は、後ろを向いている人」

    どういうことかというと、
    シューターに紙を落とす人は、いつも 穴のほうを向いている 。

    そのとき、背中は 後ろ を向いている。

    つまり、その人の すぐ後ろ に、
    仕立て屋が立っているかもしれない、ということだ。

    そして「次は後ろを向いている人」というのは、

    今度のお礼は、ボタンじゃなくて、その人自身になる

    という意味になる。

    2026/03/04/07:36

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