筆跡が同じだった。
地下の仕立て屋の返事と、初代支配人の字が、完全に一致していた。
その人は、もう七十年以上前に亡くなっている。
私はそのあとも数年働き、結局その式場を辞めた。
だが、最後の夜。
制服を返却するために更衣室でボタンを外していたとき、ふと気づいた。
制服の真鍮ボタンが、一つ足りない。
落とした覚えはない。
気味が悪くなり、館内を探した。
パントリーの作業台の上に、それはあった。
私の制服のボタンだった。
その横に、紙片が置いてあった。
万年筆の文字で、こう書かれていた。
「足りない」
意味が分からなかった。
だがその夜、最後に館内を出る前、私はダストシュートの前に立った。
中を覗き込んだ。
暗くて底は見えない。
その時、下から声がした。
「もう一つ」
驚いて身を引いた瞬間、背後で扉が静かに閉まる音がした。
振り向いた。
誰もいない。
だが背中のすぐ後ろで、古いインクの匂いがした。
耳元で、声がした。
「いつも落ちてくるのを待っているのは、こちらだけだと思っていた?」
私はそのまま館を飛び出した。
今でも、たまに元同僚と会うことがある。
あのダストシュートの習慣は、まだ続いているらしい。
変わらぬ筆跡で、作業は今も終わっているという。
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《解説》
※いみがわからない人だけよんでください。
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この言葉の意味は、こういうことだ。
「次は、後ろを向いている人」
これは、
もうボタンでは足りないから、次は人が必要だ
という意味になる。
最初、式場の人たちは「地下の仕立て屋」に仕事を頼むとき、
お礼として 真鍮のボタン を置いていた。
クロスをきれいにしたり、グラスを直したりしてもらったお礼だ。
でも長いあいだ、たくさんの仕事を頼みすぎて、
ボタンだけでは お礼が足りなくなってしまった 。
だから仕立て屋は言った。
「まだ足りない」
そして続けてこう書いた。
「次は、後ろを向いている人」
どういうことかというと、
シューターに紙を落とす人は、いつも 穴のほうを向いている 。
そのとき、背中は 後ろ を向いている。
つまり、その人の すぐ後ろ に、
仕立て屋が立っているかもしれない、ということだ。
そして「次は後ろを向いている人」というのは、
今度のお礼は、ボタンじゃなくて、その人自身になる
という意味になる。