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意味怖(意味がわかると怖い話)

志那羽岩子さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

十二分遅れのアリバイ
短編 2026/03/29 21:50 63view

 商店街の角にある小さなコンビニで、私は夜番のアルバイトをしている。

 六月の終わり、蒸し暑い金曜日の夜だった。二十一時を少し回ったころ、通りの向かいにある骨董店の前に人だかりができた。店主の有馬さんが、閉店後の店内で倒れているのが見つかったのだという。レジの金は抜かれ、ガラス戸の内側には血のついた指の跡が残っていた。

 救急車と警察が来て、静かな商店街が急に騒がしくなった。

 そのとき、店長が小声で言った。

「まずいな。翔平くん、さっき来てたよな」

 翔平は商店街のはずれに住む三十代の男で、骨董店にもよく顔を出していた。間もなく警察に声をかけられた彼は、少し青い顔で、それでもはっきりと言った。

「俺は二十時四十七分にこのコンビニで缶コーヒーを買ってます。ほら」

 差し出されたレシートには、たしかにそう印字されていた。

 二十時五十分ごろ骨董店のシャッターが閉まったのを近所の人が見ていたらしい。その時間にうちの店にいたなら、犯行は難しい。警察官もいったんレシートを預かり、翔平の話を詳しく聞き始めた。

 私はカウンターの内側で、その数字を見ていた。

 あの時刻は、正確ではない。

 三日前、店の裏でブレーカーが落ちた。そのときから、レジの内蔵時計は十二分遅れたままになっている。私は気づいて店長に言ったが、面倒だから後回しにされた。

 だからレシートの二十時四十七分は、本当は二十時五十九分だ。

 その瞬間、店の中の音が遠くなった。

 翔平は、知っていたはずだ。

 数日前、彼はレシートを見て言った。

「この店、時間ずれてますよ」

 私はそのとき、ただの神経質な客だと思った。違ったのだ。彼は確認していた。この店の時刻が、使えるかどうかを。

 私は警察官を呼び止め、停電の話と時計のずれを説明した。店長は最初きょとんとしていたが、レジの管理画面を開いて顔色を変えた。内部ログの時刻は、防犯カメラの映像ときれいに十二分ずれていた。

 事情を聞かれた翔平は、最初こそ否定したが、やがて口を閉ざした。

 その夜のうちに、彼は連れていかれた。

 有馬さんは一命を取り留めたと、あとで聞いた。

 翌朝、店長はレジの時計を直した。

「たった十二分で、人は自分を無実に見せられるんだな」

 そう言って、レシートのロール紙をしばらく眺めていた。

 私は返事をしなかった。

 直したばかりのレジで、試しに一つ打った。

 印字された時刻は、二十一時三分。

 店の壁にかかった時計も、同じ時刻を指している。

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