と、軽く一礼します。
「先ほど医師の方が来られて、死体の検案が終わったところです。
早速ですが……」
田中さんは遺体に被せられた白い布を、頭部の方からゆっくりめくります。
私は思わず目を逸らす。
白髪混じりの頭髪に無精ひげを生やし、黒いスエットを着た父は、マンションで会ったときと全く同じでした。
ただ、頭部を激しくぶつけたのか、額の辺りが少し歪んでおり、簡単な縫合処置が施されています。
「はい、父です」
私の言葉を聞き田中さんは白い布を元に戻すと胸ポケットから手帳を出し、説明を始めた。
「救急隊から警察に通報が入ったのが、3時10分ころでした。
お父さん、かなりスピードを出しておられたようで、恐らく八十㌔くらいで交差点を右折しようとしていたと思われます。
そこで、トラックと正面から衝突し……」
「ちょっと、待って下さい」
話を遮られた田中さんが怪訝な顔で、私の顔を見ます。
「事故が起こったのは、3時10分なんですか?」
「はあ、まあ、その辺りです。
それが何か?」
「それはない、と思うんですが」
「ほう、それはどうして?」
この話は怖かったですか?
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