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kanaさんによる都市伝説にまつわる怖い話の投稿です

8月21日の亡霊部隊
長編 2025/08/07 23:37 5,037view
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この旭川第28連隊の兵舎には、第1線兵舎から第3線兵舎まで3つの兵舎がありましたが、
5月に一木支隊が出発してからはふたつの兵舎が空いた状態で、第3線兵舎に留守部隊だけが残る閑散とした状況となっておりました。
その空いた兵舎を利用して、学生たちが体験訓練として宿営していたのです。

清太は兵隊たちが亡霊部隊の噂をしているのを聞き、震えました。
実は昨晩、彼は不寝番の役目を負い、深夜に兵舎の見回り等をしていたのです。
その時に、実は目撃していたのです。大勢の兵士たちが深夜に突然戻ってきて、空になっていた別の兵舎に入っていくところを。営門の方からは衛兵たちの叫ぶ声も聞こえていました。

「きっと夜間演習から戻ってきた部隊なのだろう」清太はそう思っていたのですが、翌日になって噂を聞き(さてはアレが亡霊部隊だったのか!)と愕然としたのです。

亡霊部隊の噂はやがて憲兵隊の耳にも入ります。
憲兵隊はこの不謹慎な噂を止めるべく「亡霊部隊については一切流言してはならぬ」と厳しく通達を出しました。
しかし、人の口に戸は立てられません。家に帰った学生たちから一気に市内へ噂が広がっていきます。憲兵隊は通学列車にも乗り込み、噂の根絶を計りましたが時すでに遅し。

旭川の市民の間でも多くの人が知る噂となりました。

話はこれで終わりません。
噂が噂を呼んだのか、本当なのかデマなのか、まことしやかにいろいろな怪異が現れます。

「ウチのばあちゃんも亡霊部隊の行進を見たらしい」・・・市民の間でも『亡霊部隊』を見たという者が現れました。

「28連隊の兵舎の窓ガラスが真っ赤に染まって、西日が当たった兵舎がまるで血まみれになっているようだった・・・」そう語る者もいます。

連隊内でも「夜になると兵舎の屋根瓦がカラカラと騒々しく音をたてる」という兵士や、
「兵舎の屋根に人魂のような青白い色をした2メートルばかりの火の矢が7~8本降った」という目撃者が何人も現れ、下士官室に次々と報告が寄せられる事態にもなりました。

衛兵たちが亡霊部隊を最初に目撃した8月21日の夜、実は札幌でも怪異がありました。

「息子が、息子が昨晩突然帰ってきて・・・消えてしもうたぁ・・・」
そう泣き叫ぶのは、一木支隊に参加しているはずの軍医の母親でした。

21日の晩、白衣姿で白い杖をつきながら突然帰ってきたというのです。

似たような目撃例は将校の妻たちの間でも見られました。
深夜に突然、一木支隊に参加しているはずの夫が、血まみれの軍服姿で枕元に立ったというのです。

亡霊部隊の話は、実は連隊本部にも報告されています。
8月21日当日、当直司令だった中尉の元に、2名の不寝番からの報告が上がっています。
本来ならばこの当直司令が軍旗の出迎えに行かねばならない立場の人でした。

中尉は「そんなバカな」と不寝番の二人を叱責しましたが、二人もの人間が見たというのですから、放っておくわけにもいかず、次のように連隊本部に報告をしています。

8月21日深夜、不寝番からの報告アリ。誰もいないはずの兵舎の2階からぞろぞろと兵士が降りてくる。小銃をかつぐものもいれば、ぶら下げている者もおり、一目で負け戦とわかるような乱れた服装。真っ暗なはずなのに、階段のあたりだけがボーっと明るく、兵士たちは踊り場をぐるぐると回ると姿が消えてしまった。どこへ行ったのかはわからない。

その5日後・・・第7師団に「一木支隊が大きな被害を受けた」との戦況報告が入ってきました。ただ実はこの時、一木支隊は大きな被害どころではなく、本当は全滅していたのです。

衛兵たちが最初に亡霊部隊を目撃した8月21日、その日、一木支隊は遠く南方のガダルカナル島で米戦車部隊に包囲され、執拗な攻撃を受け全滅していたのです。

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