目は血走ってたし、頬は明らかにやつれてる感じで、髪も梳かしてないからボサボサだったし、自分で見ても結構やべー奴だったから。
「大丈夫……?」って、一番仲良しの沙耶が心配してくれて、「ありがと。でも大丈夫だから――」って感謝を告げようとした時、私の目に飛び込んできたのは沙耶の顔に止まった蚊。
沙耶はきょとんとしながら口を開こうとするんだけど、私は沙耶が言葉を発するより先に沙耶の左頬をひっぱたく。
パチン!
沙耶だけじゃなくてその場にいたみんなが「なに?」っていう顔をしてて、私以外は位置的にも見えないからしょうがないよなって思いつつ「いや、今沙耶の顔にこれがさ」って、捉えた蚊の死骸をみんなにお披露目しようとするんだけど、手のひらにあるのは私の手相くらいで、蚊の死骸なんてどこにもない。
ぶたれた頬を擦りながら、「……え、なに、これ、どういうこと?」って、心配と怒りが混じったような表情で私に訊いてくる沙耶に、「蚊がいたんだよ」って正直に答えるんだけど、「いや、絶対いなかったでしょ。単にイラッとしたからでしょ?」って言われてしまう。
いやいや、ほんとにいたんだってばって返したかったけど、多分なにを言っても無駄だろうなって感じだったから私は「ごめん」とだけ告げて、その場を去る。
ムカつく。
もちろんムカつくのは沙耶じゃなくて蚊だ。
あいつのせいで友達を失いかけてるんだから。
ムカつくムカつく。ムカつくムカつくムカつく。
イライラしながら赤信号で止まっていると、信号待ちしている中年男性のおでこに蚊が止まっている。
私に躊躇はなかった。
バチン!
いい音を立てて、おでこの広いおじさんの頭部を全力で叩いた。
「いっつ……おい、ふざけんなよてめー」
おじさんは相当怒ってて、今にも私を殴りそうな眼圧で見つめながら凄んでいるけれど、私にはちゃんと理由があるので説明する。
「いや、蚊が止まってたんですよ。ほら」
やっぱり私の手には手相だけしかなくて、そこに蚊がいないことよりも短めの生命線がなんだか哀しい。
「は? なにこれ、罰ゲームかなんかか? おい、マジぶっ飛ばすよお前」
拳を握りしめてるおじさんは、本気で私を殴ろうとしてて、私はヤバい! と思って逃げる。
おじさんは追いかけてくるんだけど、あんまり足が早くなくて、私の方が早いんだけど、でも睡眠不足が祟って、足がもつれてしまう。
とにかく逃げまくるんだけど、おじさんも全然諦めてくれなくて、私はゼハゼハ言いながら多摩川の土手を駆け下りて草むらに身を隠そうとするんだけど、草が短すぎて私の身体を隠すには長さが足りない。
どうしよう。
川に逃げよう。
「へあ!」
私は多摩川の薄汚い水に頭から飛び込む。
で、水の中の砂利に思いっきり頭をぶつけて大量出血。
ものすごい浅かった。
「おい、なんだよこいつ! なにしてんだよこいつ!」っておじさんがテンパリながらも救急車を呼んでくれて、頭を結構何針も縫って、私はなんとか助かる。























飛蚊症という病気があります。眼科に行くのはどうでしょう?
もう病気やんこれ
↑あと耳鼻科に
精神科を受診すべきでは?