私は漫画喫茶巡りが趣味だ。都内の漫画喫茶はほぼ全て巡ったと思う。とにかく、そのレベルの漫画喫茶ガチ勢だ。
この前、漫画喫茶で体験したエピソードを語ろうと思う。
私はその日、新宿にある行きつけの漫画喫茶に来ていた。そこは漫画のラインナップで有名な穴場だ。図書館のようなたくさんの本棚を見漁っていると、知らない本棚があることに気がついた。
そこの本棚にはただ一冊の本が置かれていた。タイトルは「あなたの展望」作者名は「イチノミヤ カズキ」。他の本棚と変わらない大きさの本棚なのに、本が一冊しかなくて不思議な感じだった。
好奇心で本を開くと、最初のページにデカデカと書かれていたのは、私の家系図だった。思わず目を疑ったが、両親の名前も、私の名前も、みんな一致してる。見開き1ページを贅沢に使って、明治まで遡っている。そこには私も知らない親戚がたくさんいた。
ただもっと不気味なのは、家系図の先端、つまり私の隣に「イチノミヤ カズキ」が書かれているところだった。私の隣ということは。イチノミヤ カズキは私の兄弟ということになる。しかしながら、私に兄弟などいない。
私の家系は男が多く、そのため同じ姓を持つものが多い。また、イチノミヤ カズキ以外は全員指名が漢字で書かれている。全てが違うイチノミヤ カズキは、周りと比べて明らかに浮いていた。
次のページ以降は、家系図に出てきた人物の紹介があった。しかし、イチノミヤ カズキについての情報は一切なかった。他の人物には生年月日と没年、経歴と趣味と出身地などが記載されていたが、イチノミヤ カズキにはページすら与えられていなかった。
「あなたの展望」を読み終え個室に戻った。すると突然、ドン!ドン!とドアがノックされた。
「はい、どうしましたか?」
「…を、…来ました…」
「すいません、なんて?」
「弟を…迎えに来ました…」
その瞬間、勢いよくそいつはドアに体当たりしてきた。そのバターンという衝撃に一瞬足が引いたが。すぐにドアを力強く抑えた。
「弟を…迎えに来ました」
機械的にそう連呼してくる。ドアノブをガチャガチャとしながら、頭をドアにガン!と打ち付けている。鍵は閉めているが、まるでそれを無効化するかのように強引にドアノブを回してくる。こちらも全力で抵抗したが、あまりの力の強さに押し負けそうだった。しかしそこで再びドン!ドン!とドアに体当たりを始めた。ヴー、ヴーという唸るような声が、次第に荒い息になっていく。
「はやく!来いよ!」
そいつが体当たりするたびに個室の壁がキシミシと揺れ、ジュースの水面が揺れ動き、小物がガタガタと音を立てた。ポップコーンの箱が机から落ちて、床にぶちまけた。が、そんなことを気にできるほど力が残っていなかった。
「弟だろ!弟になったんだろぅ!」
「なんのことですか?」
「お前が本を見たんだろ、
もうお前もお前の家族も俺の弟なんだよ!」
「何言ってるんすか!」
「兄に向かってなんだその口の利き方は!
早く俺についてこいと───」
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