怪談を書く仕事をしていると、書けない話に出会うことがある。取材で聞いたのに、書かないと決めた話だ。理由は様々だが、最も多いのは体験者から頼まれる場合だ。Nさんの話は、そのケースに当たる。
Nさんとの取材は昨年11月に終えた。話してくれた内容のほとんどは、ここに書ける。問題は最後の一点だけだ。
Nさんが最初に気づいたのは2025年8月末だった。スマートフォンの写真フォルダに、撮影した覚えのない写真が追加されていた。撮影時刻は毎回、深夜2時31分。構図は常に同じで、自室の天井を下から撮影したものだった。
一人暮らしの部屋だ。侵入の形跡はなかった。削除しても翌夜には同じ写真が追加された。時刻は毎回、2時31分のままだった。
2時31分に意味があるかとNさんに聞いた。「わからない」という答えだった。その時刻に目が覚めることもない。何かが起きている実感もない。翌朝フォルダを開くと、増えている。それだけだという。
10日目から変化があった。天井の写真に、照明が薄く映り込んでいた。Nさんは夜、照明を消して眠る。だが写真の中では、毎回、薄く点いていた。
それが46日間続いた。
46日目だけ、他と構図が違った。天井ではなく、ベッドを横から撮影したような角度だった。
翌朝、Nさんから取材の連絡があった。「話します」と言った。
47日目に何があったか、私はNさんから聞いた。聞いたが、ここには書けない。Nさんの要望に従う。それが、私にできる唯一のことだと思っているからだ。
書けるのは、写真がその夜から止まったという事実と、それ以来Nさんが毎晩2時31分に起き、自分で天井を撮影しているという事実だけだ。























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