そして今日の昼、仕事で駅前の方へ行く用事があったから、俺はもう一度例の喫煙所に寄ってみたんだ。
平日の昼間だから人通りは少ない。だけどやっぱりいたんだよ、あのおっさんが。
俺は、前回のことがあったから少し気持ちが悪いなと思ってはいたんだけど、好奇心に負けた。
意を決して、前回のお礼を伝えたんだけど、おっさん、全然俺のこと覚えてなかったな。
「煙草ほしいのか?」
俺の礼なんて全く聞いちゃいない様子で、飄々とした調子で話しかけてきた。
俺は、その時は手持ちが十分にあったから、丁重に断ろうと思ったんだけど
どういうわけか、またおっさんの表情が気になった。
片側の口角をニイと吊り上げて、そこから覗く黄色い歯。
まぶたを細めて、楽しくて仕方がないって顔をしてた。先週とは大分様子が違うなって思ったよ。
俺はおっさんの呼びかけに肯定も否定もできず、小さく息を漏らして、目線を煙草の箱に落とした。
煙草は、二本あった。
「ほら、どっちか選べ。ほら」
おっさんは煙草の箱を持った手を揺らして、俺の選択を促す。
そこからの事はよく覚えていないけど、多分俺はその場から走って逃げたんだと思う。
間違いなく言えるのは、俺はおっさんから煙草を受け取っていないってこと。
だってな、こびりついて離れないんだよ。逃げる時に聞いたおっさんの声が。
「どうせ長くないんだから!大して変わらないだろ!」
もうあの喫煙所にも行けない。
また煙草を吸える場所が減っちまった。本当に、世知辛い世の中だよ。
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