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ヒトコワ

洒落骨カルさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

喫煙所にて
短編 2025/03/25 01:31 1,365view

正直な話、喫煙者にとっては随分やりづらい世の中になったと思っているよ。
居酒屋や喫茶店だって、分煙ならまだしも、全席禁煙のところが珍しくないし
街中で気兼ねなく煙草が吸えるところなんて本当に限られちゃってる。
でも捨てる神あればなんとやらでさ、こんな話を知っているかな。

駅前の雑居ビルにはまだ喫煙所が生き残ってて、そこに行くといつも決まって一人のおっさんがいてさ
煙草を分けてくれるんだって。
喫煙者なら誰でも経験があると思うんだけど、ついつい手持ちを切らしちまう事があるだろ。
そのおっさんは、そういう人を目ざとくかぎ分けて
「煙草ないのか?一本やるよ」って声をかけてくるらしい。

そうしてもらった煙草を吸い終わる頃には、おっさんはいつの間にかいなくなってるんだって。

煙草の妖精なんじゃないか、ってこの話を教えてくれたツレは言ってたけど
俺はただの気のいいおっさんだろとしか思わなかったな。
その時は。

それで、これは先週の話なんだけど
ちょうどその雑居ビルで会社の歓迎会があってね。
何の気なしに喫煙所に行ったら、確かにいたんだよ、おっさんが。
俺はすっかりその話を忘れちまっていたから、最初は全然気が付かなかったんだけど
折の良い事に、手持ちの煙草を切らしていたんだな。
そうしたらおっさんが話しかけてくる
「煙草ないのか?一本やるよ」

俺はそこそこ酒が入ってたから、それでも気付くのに時間がかかったんだけど
おっさんから煙草を受け取った辺りでようやく思い当たった。
と言うのも、煙草をもらう時に見えたおっさんの顔が、妙に不気味に感じたからなんだな。

仏頂面というか、ストレートに言ってしまえば、明らかに不機嫌な表情に見えたんだけど
反面、目の奥が笑ってるって言うのかな。
煙草を分けてやるのが楽しくて仕方がないって顔にも見えたんだ。
俺は、このおっさんヤバい奴かもしれない、と思いつつも
その時にはもう煙草を受け取ってしまっていたから「あ、やっぱいいです」って断るのも憚られる気がして
そのままいただいちゃった。
煙草は、少しだけタールがきつかったけども、別に変な味がするとかいったことはなく、普通に吸い終わった。
確かに、おっさんの姿はいつの間にか喫煙所から消えていたな。
これが先週の話。

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