私の知人の会社員、Fさんのお話。Fさんが前住んでいたマンションは木造建築の古めなマンションでした。そのマンションに引っ越してから初めて雨が降った日、「ピシャン ピシャン」と水溜まりの上で飛び跳ねる音が聞こえました。当初その音にFさんは耳を澄ませて聞いていたようで、『ずっと聞いていたくなるような中毒性を感じた。』と言っていました。
ある日Fさんはインフルエンザにかかってしまい会社を休んでマンションの自室で休んでいました。その日はあいにく雨、変わらず「ピシャン ピシャン」と外から聞こえる音を聞きながら布団に潜って体を休めていました。
目を覚ましました。高熱にうなされなかなか眠ることができません。「ピシャン ピシャン」外から聞こえる音を聞きながら、時計を確認すると深夜3時頃。Fさんは深夜に起きることがあまりありません。たまたま起きてしまった今日。首をかしげました。こんな時間なのになぜまだあの音が。今まで同じマンションの住人の子供が雨靴をはいて、水溜まりで飛び跳ねていると思っていたFさん。流石に違和感を感じ重たい体を起こしてカーテンを開け外をみました。
いました。しかしそこにいたのは子供なんかじゃありません。街灯に照らされた全身黒ずくめの人が…しかし音の発生源はその人なんかじゃありません。その人はマネキンを持っています。関節がグラグラ曲がりまともに立つことが出来ないようで、黒ずくめの人は無理やり立たせようとしてマネキンを水溜まりに足から叩きつけていました。そのたびにいつも聞いている「ピシャン ピシャン」という音が聞こえます。Fさんの違和感はさらに膨らみます。『頭がない』そのマネキンは頭が見当たらず首の断面が丸見えでした。それはやけにリアルで赤黒く染まっており、首の骨がのぞいていました。
街灯の明かりでそれが見えた瞬間Fさんは震えが止まらなくなり急いでカーテンを閉めました。振り返った視線の先にある布団が赤黒く染まっています。その赤黒く染まりゆく元をたどった先に、頭がありました。目を見開いて「たつ…たつ…」と繰り返し無機質につぶやく声を聞いた瞬間Fさんは気を失いました。
体調が回復するまでその日以来運の良いことに雨の日は訪れず、回復した後家族の協力も得てすぐにそのマンションから引っ越しました。Fさんは今雨の日になるとあの時の光景がフラッシュバックしてしまうようで外に出ることがままならないそうです。
あれは何だったのでしょう。
あれは本当にマネキンですかね。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。