話を聞かせていただいた人を、仮に「ユウジさん」とさせてください。
今から20年ほど前、学生だったユウジさんはある時風邪を引いてしまいました。常に家に常備しておいた風邪薬も全て使ってしまっていました。ユウジさんの住んでいるマンションからドラッグストアまでは徒歩10分もかからないほど近くにあります。遠いわけでもなく症状ものどの痛みと少しの倦怠感と言った感じで軽いものだったため、症状が軽いうちにドラッグストアに風邪薬を買いに行くことにしたそうです。
季節は秋に差し掛かった辺りで少し肌寒かったそうです。暖かい上着を着てマスクをつけて自室をでました。ユウジさんのいる5階建てのマンションにはエレベーターがついていたようで、そのエレベーターで玄関のある1階までおりました。ぼーっとエレベーター特有の体が引っ張られる感覚を感じながら突っ立っていると、さっきまで軽かった倦怠感が妙に増して感じられました。『1階です』古いスピーカーのためかザザッとノイズ混じりの音声が聞こえ、エレベーターから出たユウジさんはどんどんと増して感じられる倦怠感に不安を抱きながら玄関の自動扉から外に出ました。
7歩ほど進んだ所でふと足を止め辺りを見渡し、違和感に気づきました。普段なら少なくとも5人6人ほどいるはずの通行人が誰もいなかったそうです。さらにおかしなことに他人の足音はもちろん自分の足音でさえも聞こえません。音が何もかも聞こえません。何もかもいつもならある車通りもその時は全くないんです。まるであらゆる存在が消えてしまったみたいでした。そしてふと上をみあげてみると、真っ白に染まった空がありました。雲がかかって白くなっているわけではないみたいで、むしろ雲など一つもなかったようです。ただ一面真っ白に染まっていたみたいです。
倦怠感も今までより比べ物にならないほど酷くなり、寒気にもおそわれてこれは流石にまずいと思いマンションの自室に一度戻ろうとして振り返ろうとしたその時、ユウジさんの足元に向かって何かがどしゃっと音を立てて落ちてきました。恐る恐るその落ちてきた物を見ると、それは黒い服を来た人間でした。その人間は首から上がなく、骨がむき出しになった断面からは血が流れ出ていました。不規則にピクッピクッと体を震わせていました。目の前で起きたことが理解できず固まっていると、また何かが足元に落ちてきました。その、今度落ちてきた物を理解した瞬間ユウジさんは叫び声を上げて腰を抜かしてしまいました。今度落ちてきたのは、人間の生首でした。その生首は地面に落ちたときからユウジさんの方を目を見開いて見ていました。首の無い胴体の不規則な痙攣に合わせてその生首もピクッピクッと目と口が動いていました。恐怖のあまり動けなくなっているユウジさんの右肩に手が伸びてきました。硬直がとかれたように振り返ると、マンションの清掃員のおばさんがユウジさんの目を見てしゃがみ込んでおり『ここじゃないよ』と一言つぶやきました。
目を開けるとユウジさんは、
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