◯夜に いきなり怖かった人 いろいろ
#1『ビルとビルのあいだに居たおじさん』
どんな土地にもあると思うけれど、ビルとビルの狭間の、
誰も管理していない空間がある。
せまいところだと1m未満の幅。
たいていは業者さんが設置してくれるプロパンガスのボンベとか、壊れて動かなくなった家電などの不法投棄、たまに猫の死骸なんかもある。
いつも歩く帰り道。
そのビルとビルの狭間で、おじさんが将棋盤に向かっていた。
錆だらけのパイプ椅子に座っている。
目が合ってしまって、さらに手招きされてしまった。
まぁ、勝負だろう。
おじさんが普通に二歩をしたので、何もせずに勝てたし、
おじさんは黙って私を帰らせてくれた。
翌日、いつものように職場の帰り、その道を通った。
例のビルとビルの狭間から、あのおじさんは消えていた。
そこにはチェックメイトの状態のチェス盤と、錆だらけのパイプ椅子が置いてあり、
若い女性が横たわって眠っている。
外傷は見当たらなかったけれど救急車を呼んだ。
数分で到着した救急隊員は
「あ、これだめか」とだけ言って女性を担架で収容して去り、
20分ほどその場で待機するように言われたので待っていると次にパトカーが来て、
それから私は警察で事情聴取を受けることになった。
経験がある人なら知っているだろうけれど、
敢えて問い合わせたりしない限り、事故現場に居合わせてさらに通報したとしても
傷病者がその後どうしたかについて連絡が来ることはない。
なんだか怖いので、それっきり。
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