【神のみぞ】god knows【知る】

道端で突然、知らない人から親しげに声を掛けられて、
結果的に「人違い」みたいな経験は誰しもあるはず。
でもその「人違い」がもし、何らかの存在の意志を感じてしまうような「人違い」であったなら？
というわけで、つい先月の出来事です。

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僕はわりと珍しい姓で、子どもの頃から同級生にはすぐ名前を覚えられた。
高校時代、自分と同じくらい珍しい名字の友達が出来た。
ここにそのまま載せるわけにはいかないので、

仮に僕を『佐楢美（さなみ）』、
友達を『西園寺（さいおんじ）』としておこう。

就職で上京するまで、僕は福岡県に住んでいた。
就職で上京してしまうと、僕はもう西園寺や色んな友達との連絡を取らなくなっていた。
独りぼっちのワンルームでしばらくは、
新しい生活と引き換えに、これまでのすべてが崩れてしまったような気がしていた。

クリスマス、何だか寂しかった僕は立川の映画館へ立ち寄った。
誰かと一緒にいたかったわけじゃない。
独りだけで歩いている人が繁華街にはたくさんいる。
独りでいるのは独りだけじゃないと確認したかった。

日が暮れて、そうしてとっても途方に暮れて、中央線のホーム。
混み合う下りの車輌に乗り込んで、ドア際に立つ。

すぐ隣り合う別の線路に、上りの電車が入ってきた。

発進を待つこちらの車輌のドア際からは、
進入してきた別の電車のドア際の乗客が間近に見える。

あれ？

嘘みたいだったけど、どうやら本当だった。
よく顔を確認したけれど、どうやら本当らしかった。
なので、スマホに文字を打ち込んで、
隣の電車のドア際に立つその人物に、見えるように、
こちらのドアの窓に画面を押しつけた。

『西園寺？』