#2『びしょびしょ婆さん』
コンビニで夜勤アルバイトをしていた頃、
心霊体験なんてまったく無かったけれどヤバいお客さんはたくさんいた。
ひとりは「私の若い頃おばさん」
レジ前に来て突然、おそらく御自身の若い頃のものであろう写真のアルバムを取り出して、
「私、若い頃こんなに綺麗だったのに! 馬鹿にすんなよ!」
みたいなことを繰り返された。
以前からかなり店員に対して妙な当たり方をするお客だったので、
もしかしたら他のスタッフがその人に対して何か失礼な対応をしたのかもしれない。
それはそれで良くないけれど、
(若い頃のてめぇなんざ知らねえよ)以外の感想が無かったので、
「ハッシュドポテトが半額です!」と大きめの声で言ったら帰ってくれた。
書き出せばキリが無いので、ここでは「びしょびしょ婆さん」についてだけ短く。
びしょびしょ婆さんはいつも深夜2時、
ショッピングモールにあるような3段構えの大きなカートを押してうちのコンビニに入ってくる。
下段にはおそらく日用の衣料品、中段には空き缶と空き瓶が入った袋、
上段には太い毛筆らしき赤字で「大吉」とだけ書かれた習字の紙。
え、何? だいきち?
最初は戸惑ったけれどいつものことなので、まずモップを用意する。
びしょびしょ婆さんはまずこのコンビニで貸しているトイレに入って、
それから1時間後にびしょびしょになって出てきて、
びしょびしょの手でパンコーナーに寄り、
びしょびしょのままアンパンだけをレジに持ってくる。
びしょびしょのままのポイントカードを通して、
びしょびしょの現金を受けとり、
レジ袋は必要らしいので袋にアンパンを入れるとそれも袋ごとすぐびしょびしょになり、
レジまわりもびしょびしょになりながら「ありがとうございました!」
と御挨拶すると、びしょびしょのまま びしょびしょな感じの声で
「ちゃるたにょおせよー」的な日本語っぽいけど日本語じゃない感じのたぶん韓国語っぽい返事をしてくれて、
ここかがら本格的な清掃作業。























この勢いでもっといろんな夜を見たいです