奇々怪々 お知らせ

特別投稿

マチノスケさんによる特別投稿にまつわる怖い話の投稿です

虚形
長編 2025/01/03 00:00 2,524view

以下は■■県■■市■■町に存在する■■山で発生した、未知の異常存在の関与が疑われる現象についての情報です。
本情報は2022年09月08日に自宅で縊死している状態で発見されたフリーライターの野口■■氏の遺品から回収されたもので、野口氏が使用していたと見られるノートPCに保存された各種記録と資料、野口氏の遺体が身に付けていたスマートフォンに録音されていた音声記録で構成されています。

【情報更新】2022/09/16
検死の結果、野口氏の遺体は発見時点で死後1週間ほど経過していたことが判明しました。
声紋解析の結果、音声記録には野口氏本人のものである音声のほかに、それに重なるようにして複数の不明な音声波形が録音されていたことが確認されています。

【最終通達】2023/12/17
上記の記録をもとに専用の研究チームが結成、大規模な調査が実施されました。

しかし調査員の間で原因不明の■死が■■件発生したこと、上記の記録と同様の現象または類似した現象の発生が一定期間内に確認できなかったことから、本情報に関する全ての調査活動は2023年12月10日をもって完全に凍結されました。

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01、目撃証言(取材日時 2022/07/18)

 山頂での出来事でした。
 あそこには、何度か行ったことがあります。
 でも、あんなのを見たのは……初めてでした。

 去年の年末、私はハイキング目的で■■山を登っていたんです。あそこ、あんまり人来ないから落ち着いて景色や空気感を味わえるんですよ。たぶん、すぐ近くにめちゃくちゃ有名なハイキングスポットがあるからでしょうね。いわゆる「穴場」みたいな感じの山だったんです。400メートルもないような低山だから誰でも気軽に行くことができますし、山頂まではゆるやかな一本道で迷うようなこともない。それでいて景色は決して他の山に見劣りするものではなく、都会の喧騒から逃れてゆったりとした時間を過ごせる。本当、なんでみんな行かないんだろうって思うくらい。まぁ、穴場っていうのは総じてそんなもんだと思いますけどね。少しまとまった休みが取れた私は気分転換にと、久しぶりに■■山へ行くことにしたんです。

 もともと人気のない山ですし平日に行ったこともあってか、行きの道中では誰とも会いませんでした。おかげで木々のざわめきや鳥のさえずりなどを、じっくり堪能することができました。朝早めに出たのも心地よかったですね。ただ私は、山登りで偶然居合わせた人とその場限りのお喋りをすることも好きだったので「ひとりぐらい誰か他の登山客はいないかな」となんとなく思いながら、のんびりと山道を歩いていました。そして、そのまま山頂に着いたんです。山頂には展望台の広場と休憩所として使う平屋があるのですが、その広場に設置されたベンチに人が座っているのが見えました。ひとりだけで、ぽつんと。男性でした。

 さっきも言いましたが人が少ない山ってだけで、人がいること自体はなんらおかしいことではないんですよ。平日とはいえ、一応ハイキングスポットなわけですし。

 ただ、その座ってた人が……

 なんか変だったんです、うまく説明できないんですけど。

 無理矢理に例えるなら、ネットから人の写真を持ってきて切り抜いて、それを別の風景写真にそのまま貼り付けたみたいな。なんかそういう……変な合成感というかハリボテ感を、その人から感じたんです。格好がどうとか雰囲気がどうかじゃなくて「存在そのもの」が、この世界から致命的に浮いているような、そんな違和感。実際にその人、服装は普通だったんです。厚底のスニーカーにハイキングパンツ、アウトドア用のダウンジャケットを着て帽子をかぶってて。傍にリュックサックを置いてベンチに座って、のんびりと景色を眺めてる中年くらいの男性。いかにも「普通にハイキングをしにきただけの人」って感じの見た目だったんです。
 それなのに。いや、だからこそ。私の持った違和感は、より強くなっていきました。なんか、周りの風景に溶け込むために敢えてその格好を選んでいるような。さっきの写真の例えを続けるのなら、風景写真に「見ちゃいけないもの」があって、それを隠すために別の写真をわざわざ切り抜いて貼り付けたかのような。何かを隠している、誤魔化しているかのような。なんてことない見た目だからこそ、自分の持っている違和感を説明できない。でも、何かがおかしい。とにかく形容し難い感覚でした。
 その人はこっちに気づく様子もなく、ただぼんやりと座って景色を眺めていました。私はというと、普段ならそういう人とお喋りするために声をかけたりもするんですが……何もしませんでした。幽霊や怪異の類だと確信したわけではありませんし、普段からそのようなものを信じていたわけでもなかったのですが、それでも自分の中の違和感を拭い去ることができなかったのです。私はしばらく彼を遠巻き観察したあと、山頂からの景色を眺めながらゆっくり食べようと持ってきた軽食に手をつけることもないまま、早々に下山してしまいました。

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コメント(1)
  • なかなかたのしめた。
    作中の伏せられた地名に、地元の地名を当てはめて、勝手な想像しながら読んだ。配信動画の傍観者になった気分で。

    2025/01/03/20:05

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