奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

マチノスケさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

もみじ山
長編 2025/01/02 20:26 867view

 幼い頃、よく祖母が聞かせてくれた詩がありました。

 夕暮れの もみじの下で 呟いた

 落ちた葉は 一体どこへ いくのかな

 枝離れ 舞い散る葉見て 呟いた

 きっと お空に溶けるんだ そんで お空の色になる

 夕暮れの もみじの下で 微笑んだ

 祖母は「秋の夕暮れは、色が濃いだろう?散ったもみじ達が空に溶けていっているからなんだよ」と言いながら、穏やかな声でこの詩を聞かせてくれました。

 私の地元は紅葉で有名なんです。小さな町を囲む山々が落葉樹の林になっていて、秋になると山全体が真っ赤に色づくんです。紅葉の色づき方には地域差があるそうですね。日照時間や気温が関係してるんだとか。地元の山は、一般的な紅葉の赤より少し暗く落ち着いた「茜色」と言うべき美しい赤に染まります。鮮やかに目に焼きつくのではなく、深く目に滲んで見惚れてしまうような……そんな色です。山に生えている落葉樹は何種類かあるのですが、圧倒的に多いのがヤマモミジです。だからその山は「もみじ山」という愛称で、地元の人からも観光客からも親しまれています。
 秋の夕暮れ時、もみじ山を見ながら祖母が聞かせてくれたのが、この詩でした。祖母はこうも言っていました。

「これには続きがあるんだけど忘れちゃってねぇ、また思い出したら教えてあげるね」

 でも、祖母が続きを語ることはありませんでした。思い出せなかったのか、思い出せたけど今度は教えることを忘れてしまったのか。私もそれほど気になっていたわけでもなく、確かめる機会もないまま五年ほど前に祖母は亡くなりました。

 ──今更その続きが気になりだしたのには、理由があるんです。

 去年の春、大学進学を機に上京して一人暮らしを始めました。それまで地元から出ることがなかった私は、初めて外の人からもみじ山の話を聞くことになったんです。私にとってのもみじ山は、ただ「地元にある紅葉が有名な山」でした。勿論それは正しかったんですが、それと一緒に何というか……変な噂も耳にするようになったんです。

「もみじ山は、訪れたあと行方不明になる人が多い」

「行方不明になれば遺体も痕跡も、何もかもが見つからない」

 噂と呼ぶにはあまりに情報と信憑性が乏しく、半ば都市伝説のようなものでした。もちろん身内や他の地元民からは聞いたことがない話でしたし、そんな奇怪な事件が起きているなら報道の一つや二つされているはずです。
 もし、話がこれで終わっていたなら。決して気分のいいものではありませんが、誰かが作ったデマが広がっただけだと笑い飛ばしていたと思います。祖母が聞かせてくれた、あの詩の続きが気になることもありませんでした。

1/4
コメント(1)
  • 夜中に金華山に登ると良いことがある。ただ調べていくと、何もいい事は無い。調べずに無心で行くということがある 

    2025/01/06/14:27

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。