獄中死したとある老人の話
投稿者:ねこじろう (149)
白髪をキチンと七三に分けた小綺麗な紳士という印象の彼はかつては医師で日常的に車を運転していたらしく、事故を起こした日もそうだったという。
世間やマスコミは徹底的に彼を糾弾した。
それは犠牲者の中にまだ若い母と幼い子供がいたということもあったのだが、それよりなによりSは決して自らの非を頑として認めなかったからだ。
担当の奥谷が取り調べをした時の彼の主張はこうだ。
いつも通り車を運転してるといきなり老婆に足を掴まれ、無理やりアクセルを踏ませられたんだ。
私は、、私は必死にブレーキを踏もうとした。
でもダメだった、、ダメだったんだ!
もちろんそんな無茶苦茶な抗弁が通るわけもなく、判決は五年の禁固。
だが彼は刑期を全うする二年前に獄中で亡くなる。
老衰だった。
「結局その老人が言いたかったのは運転席足元に皺だらけの老婆がいて、自分の足を掴んで無理やりアクセルを踏ませたということなんですか?」
呆れ顔で脇田が問う。
「ははは、どうせアクセルとブレーキの踏み間違いに決まってるさ。
だいたいこんな狭いところに人なんか居れるはずがないだろ?」
と言って奥谷はチラリと足元に視線をやった。
するといきなり脇田が彼の二の腕を叩き「先輩ほら前前」と言う。
対面する信号は赤だった。
「おっと」
言いながら彼はあわててブレーキを踏む。
そしてふっと一息つくと「ふぅ危ない危ない、俺まであの老人みたいなことやりそうになった」
と言いながら奥谷は脇田の顔を見てからクスリと笑う。
やっぱ、ねこじろうさんは神っすね
その悲惨な事件の無限ループですか
コメントありがとうございます
━ねこじろう
七人ミサキみたいな感じで、誰か違う人を引きずり込む事で成仏できるとか