「どっから入った・・・?」
呟いた塚本は顔を上げ窓ガラスの向こうの暗くなったベランダへ視線を移した。
そこで信じられないモノを目にし、声にならない声を上げ驚愕に目を見開く。
塚本が見たモノ、それはベランダではなく窓ガラスに写り込んでいるリビングの光景。
そのリビングの中央、自身の背後に包丁を握りしめてゆらりと直立している青白い顔の女の姿を認めたのだ。
「あ、あ、亜里砂・・・」
震える声で振り返り、そして塚本は亜里砂、
この〈私〉のいる方へと顔を向けた。
霊体である私の姿は鏡や窓ガラスにしか写らない。だからこの男の目には包丁が空中に浮かんでいるように見えていることだろう。
やろうと思えばいつでもこの男を殺せた。しかしそれだけでは私の気が済まない。
浮気相手の女にも一矢報いないことには収まりが付かなかった。そしてやったのはこの私だと、まざまざと知らしめてやりたかった。
この男はいずれ女の元に出向くか、女を自分のアパートへ呼び寄せるだろう。
そう踏んで私は朝からずっとこの男のそばを離れなかったけど・・・
まさか、こんなに早く目的が達成できるなんて思わなかったよ。
塚本の元へ一歩一歩、私は距離を縮めていく。
「亜里砂、すまない、お、俺が悪かった、な?本当に、だから」
膝をついて白々しい謝罪の言葉を述べるその口の中へ、私は一切の躊躇なく包丁をねじ込んだ。
うぐぅ、とくぐもった音を喉から発し、包丁を引き抜くとゴボッと盛大に血を吐き出した。
そのまま仰向けに塚本は倒れ込む。
私はその身体へ馬乗りになり、顔面めがけて何度も何度も執拗に殺意だけを込めて包丁を振り下ろした。
よくも!よくも!よくも!よくも!よくも!
振り下ろす度に鮮血が飛び散り白いカーペットに真っ赤な華が咲く。突き刺した刃先を引き抜く時、頭も一緒に少し持ち上がる。
塚本が動かなくなった後も構わず私はメッタ刺しを止めなかった。
どれだけそうしていただろうか。流石に清々した私は包丁を放り投げた。
のろのろと緩慢な動作で立ち上がり、リビングの凄惨な光景をしばらく眺める。
首から血を流し倒れている女。その隣に顔面が潰れたトマトのように原型を留めていない男。そしてバスルームには袋に入ったバラバラ死体。
世間はこの猟奇的な事件でしばらく持ちきりになるだろうし警察の捜査はこれ以上なく混迷を極めることだろう。
けれど今の私には知ったこっちゃない。どうでもいいことだ。
それにしても・・・変だな。
完璧に復讐を終えたというのになんだろう、この気持ち。
晴れやかな気分にはほど遠く、ただただ虚しさだけが胸の内でどこまでも膨らんでいく。
かなり引き込まれる、いい(怖い)話でした。
流石に死体をバラバラにする様子は見てて気持ち悪いでしょうね😅
確かに
ぐr
最後ちょっと切ない😢
怖くて悲しい話ですね。<亜理砂>の事を考えると切ない・・・
ちょっと悲しい