私の趣味は深夜にドライブすることだった。
例えば、自宅から遠くに見える山の上の鉄塔。あの辺りはどういう場所なのだろう?どこまで車で近づけるのだろうか?そういった好奇心が私の原動力となっていた。その原動力が仇になるなんてアレに遭遇するまで思ってもいなかった。
これは2年前、私がこの趣味をやめるきっかけとなった話。
2年前の8月、私は隣県にあるダムへ行こうとした。そのダムから見える朝日が綺麗だということをネットニュースで知り、興味を持った。実際に拝んでやろうと思ったのだ。これはその道中の出来事だ。
確か午前1時頃に自宅を出発したと記憶している。夜明けまでにダムに到着しなければ。そんなことを思いつつも安全運転を心がけ山道を走っていた。急なカーブが続く道を抜け、ようやく開けた直線に出た。ただ、その道は細く、車1台通るのがやっとだった。すぐ隣は崖、落ちたらひとたまりもないな、なんて考えながら崖側を見ると標識のようなものが立っていた。車が進むにつれてそれは標識ではなく手製の看板だということに気付いた。その看板には手書きで『ここでとまれ』と平仮名で大きく書いてあった。あぁ⋯道路が狭いから安全確認の為の一時停止か。そんなことを思って一応車を停めた。その時だった。
『コン、コン』
運転席側の窓ガラスをゆっくり2回ノックされた。私は驚きながら右を向く。するとそこには80歳くらいのおじいさんが立っていた。なぜこんな時間に人が?しかも、こんな辺鄙な場所に⋯そんなことが頭に浮かんだが、とりあえず窓を開けてどうしたのか聞いた。
「あの⋯どうかされました?」
「いっしょにさがして!さがして!僕の目!オメメがなくなっちゃったの!」
目を見開いて叫ぶおじいさん、その瞳は真っ黒だった。ただ1番驚いたのはそこではなく、おじいさんの叫び声が幼稚園児くらいの幼い声だったのだ。
私はアクセルを強く踏み、その場を離れた。心拍数が上がり、呼吸が荒くなっているのがわかる。なんなんだアレは。人の形をしているが、生きた人じゃないということは直感でわかった。
その後すぐコンビニを見つけ、タバコを買い、夜が開けるまで車の中でボーっとして時間を潰した。その後は行きとは別のルートで帰宅した。結局ダムには行けなかったが、そんなことはもうどうでもよかった。
あれ以来、深夜のドライブには行っていない。






















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