数年ぶりに会った友人は、記憶よりもかなり痩せていた。痩せたというか、やつれていた。ストレスでもあるのかと聞いてみると、健康診断で引っかかったことをきっかけにジムへ行き始めたのだという。そう言われてみると、細身のマッチョに見えてくるから不思議だ。
「幽霊ってさ、生命力は溢れてたら逃げるって言うけど、あれ嘘やね」
「なんで?」
「筋トレしてる幽霊を見たからさ‥」
話を聞いてみると、通っているジムには“ランニングマシンで走り続けている幽霊”が出るのだという。始めこそ怖がって見ないようにしていたものの、最近は景色の一部と捉えて気にならなくなったのだとか。
「幽霊にも健康診断とかあるんやな、初めて見たときよりもだいぶ痩せてきてるわ」
彼はその幽霊を横目に見ながらランニングマシンで走っていると、自分も頑張ろうと思えモチベーションに繋がるのだと言い切った。
理由が何であれ、運動するのは良いことだと思っていたのだが、そうも言っていられなくなってしまった。
この話を聞いてから半月が過ぎた頃、再び友人と会うことになった。
彼のアパートに着くと、玄関の扉が半分開いていた。
「空気悪いな、ここ」
中からは湿った空気が流れてくる。
中に入ると、友人は部屋の真ん中で大の字になっており、うめくようにこう呟いた。
「なんやったんやろうなぁ、あれ」
ある日、友人はいつものようにジムに入ると、件のランニングマシンに目を向けた。
幽霊はランニングマシンの前に立ち、じっとこちらを見つめている。
そういえばまじまじと顔を見たことはなかったなぁと思いながら近づき
「今日は走らないんですか」
と声をかけたのだという。
幽霊は口元だけで笑い、消えた。
声をかけるのは悪かったかと感じ、ランニングマシンに向かいトレーニングを始めようとしたとき、あることに気が付いた。
ランニングマシンが無い。
その他の器具も含め、何もかもが無い。
それだけではない。
周囲を見回すと、ジムが入っている建物そのものが無くなっていた。
突然の変化に、頭が追いつかない。
言葉が見つからない口からは、ただただ息が漏れた。
駐車場に向かい車で帰ろうとしたとき、さらに驚くような光景を目にした。
《一ヶ月以上の駐車はご遠慮ください【警告日】平成○年○月○日》
先ほどまで乗っていたはずの車のタイヤの空気は抜けており、車体にはうっすら埃がたまり、車体の下には苔が生えていた。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。