馬引神社に纏わる悲しい話
投稿者:とくのしん (65)
そしていつしか子供を手にかけた母親や子供を売った親たちが、我が子の臍の緒を神社に奉納するようになった。せめてもの供養にとのことが始まりだった。それだけにとどまらず、罪の意識に苛まれ我が子のあとを追う母親が続出した。そういったことが起きるようになり、縁切り神社とも間引(まびき)神社とも呼ばれるようになった。(元々は馬を引いて無病息災、豊作を祈るといった行事から、馬引神社と呼ばれていた。)
そんなことが続いたある年、村では甚大な飢饉が起きた。それだけではない、疫病が蔓延し村全体が瘴気に包まれたようになった。馬引神社には神職者がいたものの、手に負えないと周囲の神社に手助けを求めた。そして集まった神官たちが原因を追究したところ、奉納された“臍の緒”が呪物と化し、村全体に呪いをかけたようになっていたことがわかった。3日3晩、神官たちが祝詞を唱えお祓いをしたのち、神社の社を一度解体し、地中深くにこれを祀り周囲の神官たちで管理することにした。そして50年に一度封印をかけ直すということになり、それがこの年であった。
神主は話の締めくくりに言った。今回の件は、妖に唆された子どもたちが引き起こしたものである。しかし子供たちに責任はない。この地に根付いた“間引き”という文化が生み出した、村の歴史が根源だと言った。(文吉の時代は、貧しくとも間引きといったことはなかったようである)
そしてこれより3日3晩かけて怨念を祓うとも言った。それには以下の約束事を守るよう村民たちに強く促した。
一つ、決して神社には近づくな
二つ、決して陽が落ちたら家から出るな
三つ、決して呼びかけに応じるな
これらを必ず守るように伝え、不要な限り家から出るなとも付け加えられた。
この日から3日かけてお祓いが行われた。村の至る所に松明が焚かれ、神官たちは交代で村を練り歩きながら祝詞を唱え続けた。すると村のあちらこちらから赤子の泣き声や、幼子の親を求める声、母親と思しき子供を呼ぶ声が聞こえたという。
さらに文吉の体験した話によれば、雨戸を締め切った家のなかで、自身を呼ぶ声が聞こえたというのだ。雨戸を叩き自身の名を呼ぶ声には聞き覚えがあったが、その声はあの庄吉兄弟だったそうだ。しかし神主のいいつけを守り、その呼びかけには決して応じなかった。
そうして3日3晩かけてお祓いが終わると、件の臍の緒が入った壺は社下の地下へと祀られた。その際、庄吉兄弟の変わり果てた姿が見つかったという。
現在この村は、過疎化が進み限界集落と化した。いずれなくなるであろうこの自然豊かな村にはそんな悲しい話が伝わっている。この話を提供してくれたのは先祖代々ここに住み続ける中村さんだ。実は中村さん、この話に登場する文吉さんの子孫である。
かくいう中村さんが小学生の時代に、同じく川が氾濫し神社が濁流に飲まれたことがあった。その際、集落の大人たちから“絶対に近づくな”という御触れが出回った。その真相は成人してから聞いたそうだが、今も村にはその話が伝わっている。
「実際に社の下にそんなものがあるかどうか調べたことはないし、そんな話も聞いたことがない。子供が悪さをしないための大人の作り話かもしれない。でもね、確かに大昔には間引きなんていう悲しいことがまかり通った時代があったのは事実だ。だからこそ、私たちが今こうして何事もなく生活できることを感謝しなきゃならん。いずれこの村は無くなるだろう。そのときまでこの話を我々は伝えていく義務があると思っている。それが供養になると私は思っているんだ」
そう話す中村さんの視線の先に、小さな神社がひっそりと佇んでいた。
この話を持ちまして、しばらくお休みさせていただこうと思います。
ほぼ1年に渡り毎月2~3作を投稿させていただきましたが、ここらでネタ切れです(笑)
まだ執筆途中の作品もあるのですが、少し専念したいことができたためかモチベーション維持が困難になりました。少し充電期間を頂いたのち、また復活できればと考えています。
これまで作品に投票いただいたり、動画にしていただいたりと皆さまには大変感謝しております。復帰後もたくさんの人に投票してもらえるような作品を書いて戻ってきます。
ありがとうございました。
陰ながらいつも応援させて頂いておりました。
またとくのしん様の作品を読める日を心待ちにしております。お疲れ様でした。
とくのしんさんの作品、面白くて毎回投稿されるのを楽しみにしていました。
復帰、待っております!お疲れ様でした!
必ず復帰して頂きたいです。お疲れ様でした。
とても読みやすくて、ひきこまれる作品ばかりでした。ありがとうございました。
面白かったです。
コメントありがとうございます。
少しお休みはいただきますが、少しづつ投稿ネタは増やす予定です。ストック溜まった頃に投稿させていただきますので、そのときはぜひよろしくお願いします!
とくのしん