慎吾の提案を受け入れないはずがないルミだった。
ドキドキしながら広い背中に従う。
慎吾お薦めのイタリアンレストランは繁華街の商業ビル一階にあり、日曜日ということもあって店内はほとんど満席だった。
しょうがないので二人はお店の外側にいくつか並べてあるかわいいパラソル付きの丸テーブルに座る。
晴天だからそんな場所でも全く問題はなかった。
オーダーを頼み十分ほど待つと、二人の目の前には白い皿に盛られた熱々のパスタが置かれる。
二人は出来立てのパスタを食べながら、いろいろなよもやま話をしていた。
パスタから立ち上がる白い湯気の隙間から覗く慎吾の笑顔。
どこからか吹いてくる心地好い春の風。
周囲の風景は皆活き活きと輝いていて、ルミは大げさではなく人生最上の瞬間を味わっていた。
だが、それも食べ始めてから五分までだった。
また昨晩と同じ強烈な吐き気がルミを襲い彼女は思わず片手で口元を押さえた。
「どうしたの?」
慎吾が心配げにルミの顔を覗く。
彼女は眉間にシワを寄せながら大きく目を見開き片手で口を押さえたまま立ち上がる。
そして最後は我慢出来ずに上を向いた。
「うう……おおおお……ああああ……ぁぁぁぁ」
奇妙な悲鳴をあげながら苦し気に胸元を搔きむしり始めた次の瞬間だ。
その口から血の混じったうす黄色い胃液とともにパスタが噴き出され、彼女の新しい服と白いテーブルを汚す。
その後間もなくしてあの気味の悪い生き物も数匹飛び出してきた。
そいつらはテーブルそして慎吾の洋服にまで飛びニュルニュル蠢いている。
周囲の客たちも異変に気付いたようで皆唖然とした表情でルミの様子を見守っている。

























怖いより、何か悲しい
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─ねこじろう