立ち上がって見ている者もいた。
道行く人も足を止めている。
慎吾が唖然として固まっているとルミは放心状態のままドスンと椅子に座る。
そして椅子にもたれ上を向き口を開いたまま二度三度と痙攣を起こした後、ガクンと意識を失った。
「お、お客様……だ、大丈夫ですか?」
若い女の子の店員が心配げにルミに近づく。
我に戻った慎吾も立ち上がり彼女の側に行こうとしたときだ。
「きゃああああ!」
耳をつんざくような悲鳴をあげて店員がしりもちをついた。
慎吾も大きく目を見開き思わず後退りする。
椅子にもたれかかって天を仰ぎポッカリと開いたルミの口の中から、異形の生き物がひょっこりと顔を出した。
その面構えは蠅そのもので口の上下に無数にある突起をうにょうにょ動かしながら、ゆっくりと外に出始める。
そいつは水筒位の大きさのヌメヌメと照り光る灰色の体躯を器用にくねらせながら、ピンクのドレスをスルスルつたってテーブルの上まで登る。
それから二つの大きな眼の上の二本の触覚を動かしながらゆっくり這い進み皿の上に残ったパスタに近づくと、無数の突起が蠢く口でムシャムシャと喰らいだした。
周囲の者たちは恐怖でただ呆然とその様を見守るだけだった。
【了】
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怖いより、何か悲しい
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─ねこじろう