飯酒盃(いさはい)という苗字の男
投稿者:ねこじろう (157)
長編
2024/04/01
14:55
9,893view
「ほう、よく憶えてましたね?」
毒島が感心したように言うと男性は続けた。
「ええ、この方変わった名字でしょ。
それとね、適性検査の結果がとにかく酷かったんですよ。
ペーパー試験はギリギリでしたし実技では何回か脱輪したり挙句の果てはアクセルとブレーキ踏み間違えたり、もう大変でしたからね。
まあ本人がその時言ったのは、たまたま緊張していたからで普段はそんなことはないとか言ってたから何とかオーケーしたんですがね。
ところでこの方が何かしたんですか?」
「いえ、まあ、ご協力ありがとうございます」
そう言うと毒島は早々に立ち上がった。
※※※※※※※※※※
市内の病院に入院する飯酒盃茂氏の面会が出来るようになったのは、彼があの事故を起こしてから一週間が経った月曜日だった。
その日毒島は午後から飯酒盃の入院している個室を訪れる。
入口のドアを毒島が開けた時、飯酒盃は窓側のベッドで半身を起こし外の景色をぼんやり眺めていた。
頭や腕には包帯が巻かれている。
「初めまして、私N北警察署捜査一課の毒島と申します」
毒島は飯酒盃に恭しく名刺を渡すと枕元のパイプ椅子に座る。
飯酒盃はしげしげとそれを眺めた後、口を開いた。
「捜査一課と言ったら確か殺人とか傷害を担当する部署でしょ?
刑事さん私はね、あの時ブレーキとアクセルを踏み間違えたんです。ご夫婦には気の毒だったが、あれはあくまでも過失だったんですよ」
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 15票
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。