有料テレビ
投稿者:ねこじろう (153)
俺は今年44でバツイチ独身の男だ。
全国各地を転々としながら様々な物品の展示即売会を催し、生計を立てている。
もともとは浅草のボロアパートを寝ぐらにしているのだが、週のほとんど仕事で出歩いているので家で寝るということがあまりない。
ビジネスホテルや安旅館あとサウナの仮眠室たまに今流行りのネカフェにも泊まったりするし、なんだったら駅ホームのベンチで寝たこともある。
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それは昭和の終わり頃の暮れも押し迫った十二月のある日。
九州南部にある田舎町のプレハブ小屋を借り、ある会社の倒産品の展示即売会をした。
一日めの早朝。
あらかじめ業者に頼み現地に送ってもらっていた商品を数脚の長机に陳列してから、客を待つ。
物珍しさも手伝って地元の人たちが次から次に集まりそこそこの売上が上がった。
それでその日の夜はプレハブ小屋の隣にある旅館に泊まることにする。
というのは旅館の主人はプレハブ小屋のオーナーで宿泊してくれるなら、旅館の宿泊費を少し安くしてくれるということだったからだ。
ただ旅館といっても民宿に毛が生えたようなところで、二階建ての古びた木造家屋の入口横には『観光旅館 朝風』という看板が掲げてある。
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立て付けの悪い片開きのガラス扉をガタガタと開けるといきなり広めの上がり口があり、受付カウンターがあった。
カウンター向こうには六十過ぎくらいの顔色の悪い痩せたオヤジが座っている。
神父が着るような真っ黒な修道着にベレー帽を被り、腕にはどでかいロレックスの腕時計をしていた。
旅館の主人だ。
右の首筋を片手でとんとん叩きながら険しい顔で革表紙の本を読んでいる。
よく見るとそれは聖書だ。
キリスト教徒なのだろうか?
背後の壁の天井に近い所には、
角の曲がった獰猛な感じの牡牛の頭部が飾られており、度肝を抜かれる。
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