「おまじない……?」
「うん、
『シオリさん、ありがとうございます』
『シオリさん、ありがとうございます』
『シオリさん、ありがとうございます』
って。
恋のキューピッド的な存在にお礼を――」
「何よそれっ⁉」
突然、住野先生が悲鳴じみた声を上げたので、私は思わず小さく飛び上がってしまった。
当の先生は口元を押さえて足元の一点を見つめている。
「……どうしたんですか、先生? おまじないが何か――」
「違うの」
先生が私の言葉を切り裂く。
その声は、微かに震えていた。
「……私が学生だった頃、『伝説の樹』はそんな話じゃなかった。
『イジメを苦に自殺した女子生徒が、首を吊った。
それが、校舎裏の古い樹。
今でも樹を見上げると、その生徒がぶら下がっているのが見える。
その目が、こちらをじっと見下ろしている――』」
なんだそれは。
私の知る『伝説の樹』とは似ても似つかない、おぞましい話。
「じゃ、じゃあ……、『シオリさん』って……」
「もうわかるでしょ? 自殺したっていう女子生徒の名前。
誰が最初に言い出しのか知らないけど、あまりにも悪趣味だわ……」
でも、と私は思った。
所詮は言い伝えだ。
先生の時代にだって、それは「学校の七不思議」に類する、ただの噂話に過ぎなかったはずだ。
その時、目も合わせずに先生がつぶやいた。
私の心を読んだかのように。
「その生徒は、私の一学年上の女の子だったの。
実際にいたのよ、シオリさんは――」
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