松谷の笑えない話

高校の同級生の田中くん、松谷くんと成人してからも三人でよく集まっていて、月に一度は馴染みの居酒屋に集まり、お酒を飲んでいました。

お酒を飲みながら、いつも三人でする恒例行事があります。それは、テレビで放送している「すべらない話」の真似事をする事です。本家のすべらない話とは違う所がいくつかあります。
三人しか居ないので、順番に一人ずつ喋る事、喋るテーマはそれぞれが出し合ったお題で、そのお題に沿った話なら、嘘でも実話でも何でも良い事です。

ある日も三人で飲んでいて、すべらない話もどきが始まりました。喋るお題は僕が「自販機」田中くんが「道」松谷くんが「お酒」に決まり、最初は僕が即興で考えた自販機を少し絡めた嘘の話をして、次に田中くんも聞いていて嘘だとわかりましたが、かなり笑える道に関係する話をしました。
松谷くんの順番になり、前置きとして「お酒でなんか話作ろかな思ったけど、実際に起きた事思い出したわー」と言って松谷くんが喋りだしました。

「高校の時に、家でこっそりチューハイとか飲んでて、それをある日オヤジにバレてめっちゃ怒られてん、未成年やし怒られるのも仕方ないねんけど、怒られながら思い出した事があって、俺がまだ小学1年ぐらいの時にオヤジが家で急にお酒を飲み始めて、俺とかオカンに手こそ出さんかったけど、物に当たったり、壁を殴って穴開けたりしててん」
ここまで聞いて、これ笑える話なんか？と思い、ふと田中くんを見ると、田中くんもそう思ったみたいで、目が合いました。それに気がついた松谷くんは「いや、おもろいから最後まで聞いてくれ」と言って話を続けました。

「一通り怒られた後にオヤジに聞いてん、オヤジも昔家でめっちゃ飲んでたよな？って、ほんなら教えてくれてんけど、その時期オヤジは会社で部署を変えられたらしくて、仕事が上手いこといかんくて、そのストレスでお酒を飲んでたみたい、でも自分でも物に当たったりするのは良くない事やとわかってて、その事を会社の先輩に相談したら、その先輩はお酒がめっちゃ好きやけど、持病持ちで医者に止められて禁酒してて、お前も嫁さんと子供の事を思って禁酒しろよって、一緒に頑張ろうやって、オヤジに言うてくれたらしいわ」

ここまで聞くと、田中くんは「ええ話やん！」とつっこみを入れました。
僕も間髪いれず「その先輩のお陰でオヤジさんは禁酒に成功したん？」と言うと、松谷くんが少し笑いながら
「いや、オヤジもしばらく我慢できたみたいやけど、我慢の限界が来て今日一日だけ、一杯だけって思って仕事終わりに一人で飲みに行ってんて、居酒屋のカウンターに座って一気にビール飲み干して、もう一杯だけと思って注文してたら、横に綺麗な女が一人で座ってきて、その女とオヤジはえらい話が弾んで、気がついたらラブホテルに行ってて、その後も何回かそういう事を繰り返しててんけど、ある日嫁に気づかれてるかもって思ってきて、女の感みたいな奴あるやん？さすがにヤバいと思ってオヤジは浮気相手の女に別れを切り出したら、その女が別れるなら死ぬとか言い出して、オヤジはどうせ言うだけで本間には死なんやろって思って、それから連絡も取らんかったけど、ある日寝ててふと目を覚ましたらその女が枕元に立ってて、顔は髪の毛で隠されてたけど、本間に死んで出てきたと思って、布団に潜り込んで心の中でごめんなさいって唱えてたら、その女がなんかブツブツ言うてて、オヤジは布団の隙間から女を見上げたら、ゆっくり手拍子しながら、小声で信じてる、、信じてる、、信じてる、、って言うててんて、それ以来オヤジはお酒も浮気も全くしてないらしい」

それゾッとする話やんけと僕と田中くんはビビりながら言うと、松谷くんが「まだこの話には続きがあってな、実は俺もその女を見てん、小学生になって俺は部屋を与えられて一人で寝ててんけど、トイレに行きたくなって、起きてトイレに向かったら、オヤジの部屋のドアがちょっと開いてて、まだ起きてるんやって思って部屋の中見たら後ろ姿やけど、女が立ってんねん、オヤジが言うてたように、なんかブツブツ言いながら、、腕がなんか動いてるように見えて、俺の声にもならん声が漏れて、その女がゆっくりこっちに振り向くねん、、手で髪をかき分けて顔が見えてわかってんけど、、その女、オカンやねん、あっち行きなさい、もう寝なさいみたいな表情するから、あわてて自分の部屋戻ってんけどな、あの時俺にオカンが気づかんかったらオヤジの事どうするつもりやったんやろ、、オヤジは今でも枕元にたった女が幽霊やと信じてるわ、俺は幽霊を見たことある！っていまだに言うてるし、めっちゃ面白くない？」

松谷くんの話が終わり、僕は再びこれ笑える話か？と思い田中くんを見ると田中くんはめっちゃおもろいなぁと言って笑っていました。