だから幽霊には関わらないほうがいい
投稿者:Mine (24)
「……あのさ、私には大した事はできないけど、でも、これだけはあなたに伝えたくて。……あなたは何も悪く無いんだよ。絶対。」
女は突然顔を上げ平山さんの方を向いた。
初めて見るその顔は原型を留め無い程に潰れていて身体と同じように血で真っ赤に染まっている。かなり凄惨な事故だったようだ。
車は一体どれだけの速度で彼女を轢いたのか。平山さんは内心の動揺を悟られないよう努めた。
『ほんとォ?……今の、ほんとォ?』
初めて彼女の方から話しかけて来た。やっと心を開いてくれたのだ。
「うん、本当。あなたは悪くないに決まってるよ。……だからね、色々言いたいことあるなら全部私に気が済むまで吐き出しちゃってよ。一晩中でも付き合うから。」
明日仕事が休みで良かったと平山さんは思った。信号が青になり、車を発進させる。
『ありがとう…ありがとうございますゥ…ずっとその言葉が欲しかったんですゥゥ……』
そう感謝の言葉を震えながら口にすると、今までの態度が嘘みたいに女は捲し立て始めた。
『そう!私は悪くないの!全部あのガキが悪いの!いきなり車の前に飛び出して来たあの糞ガキが悪いんだよ!!死んで当然だろあんなガキはよぉ!!おかげで私は世間から人殺しと呼ばれて仕事もクビになって彼からも婚約破棄されて家族とも疎遠になって!生きる意味が無くなったんだよ!!人殺しの私に居場所は無かったんだよぉ!!』
平山さんは血の気が引いた。
身体が震え、運転が上手く出来ない。
『だから私は死ぬしかなかったのぉ!この世を恨んで屋上から飛び降りたんだよ!だって皆が私を否定するから!!他にどうしようもなかったんだよォォ……!!』
ぐちゃぐちゃの顔を更に歪ませながら女は理不尽な言い分を叫んだ。
もう限界だった。口の中がカラカラに乾いて言葉が出せない。急いで車を路肩に寄せ停車させた。それからぎごちなくゆっくりと助手席の女に顔を向けた。
『私ずっと待ってた。私を許して、受け入れてくれる人をあそこでずぅーっと待ってた。あなたに会えて本当にウレシイ……』
その言葉を最後に女は姿を消した。
平山さんは暫くそのままぐったりとシートに身をもたせかけ、思考を巡らせた。
やらかした……
事故の内容を少しでも調べるべきだった。
あの路地の交通事故で犠牲になったのはどうやら子供だったらしい。
あの女は車に轢かれたんじゃなくて、轢いた側だった。実刑は免れたが世間からバッシングを受けそれで自殺したんだ。
生前に恨みや怒りを残し自殺すると成仏出来ないって言うけど、あの女がまさにそうだったんだ。それは流石に私の手には負えない。
どっと疲労感が押し寄せ、アパートへと車を走らせた。ようやく帰り着き、玄関を上がり真っ暗なリビングの明かりのスイッチを入れた。あの女が目の前に立っていた。
「ヒィッ!!」
平山さんが悲鳴を上げたのと同時にまた女は姿を消した。 まさか、そんな……
翌日、平山さんは最寄りのお寺にお祓いの相談に行ったが住職が言うにはその女の霊は相当の強い念で取り憑いており祓うのは難しい、とのことだった。
「あなたは悪くない、と言ったのがまずかったね。周りから迫害され自ら命を絶った彼女はあなたを唯一の理解者だと思い込んだ。あなたに強く依存してしまってるよ。だから霊感があって霊と意思疎通が取れるあなたみたいな人は迂闊な事はしちゃダメなんだ」
住職に言われたその言葉に平山さんは気が遠くなった。
唯一の対処法は女の成仏を長い間毎日欠かさず祈る事だけ、と説明を受けた。もちろん数ヶ月そこらの話ではない。年単位だ。それでも女が成仏する保証はないらしい。
怖すぎる!
最近読んだなかで、一番怖い。
凄く怖かったです
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まさに悪霊