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心霊

Mineさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

だから幽霊には関わらないほうがいい
長編 2024/02/28 12:53 8,277view
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IT企業でOLをしている平山さんは郊外から車通勤をしている。
仕事は忙しく帰りは大抵夜10時を回り、場合によれば日を跨ぐことも珍しくない。
行きも帰りも決まったルートを通るのだが、その途上に車2台がギリギリすれ違える程の幅で見通しの悪い路地がある。そこは夜になると人通りがぱたりと絶えるうら寂しい場所だ。
その路地を進んで中程に立っている電柱の根元には花束やお菓子が供えられていた。
他県から越してきた平山さんは以前ここで人が車にはねられ死亡する交通事故があったと噂で耳にしている。車の運転手は危険運転に該当せず初犯でもあり、執行猶予付の軽い判決で済んだらしい。
そして件の電柱の隣には手脚が折れ曲がり頭が割れ、全身血塗れの女性の幽霊が夜な夜な顔を俯かせて恨めしげにぽつんと佇んでいるのだ。
最初に見た時、平山さんはこの女性は怪我をしているのではなくこの世の者ではないとすぐに気づいた。身体がぼんやりと透けているからだ。

平山さんがその女の霊を見ても動じないのは昔から霊感が強くその類の物は幼少期から目にしていて人一倍耐性が付いているからである。
祖母が言うには死人を見かけても決して話しかけたり目を合わせてはダメ、という事だった。だから平山さんは祖母の言いつけを守り、毎晩その霊を目撃しても気づいていない振りをしそのまま素通りしていた。
服装や背格好からすると恐らく20代、自分とさほど変わらない歳に見える。顔は俯いていて長い髪に隠れている為に判別できない。 
雨の日だろうが肌を刺すような寒い日だろうが、あの霊はいつも電柱の側にいた。

若くして不慮の事故によりこの世を去るというのは計り知れない未練があるに違いない。
あの霊はこのまま誰にも顧みられる事もなく永遠に、孤独に立ち尽くしているのだろうか。なんだかすごく……不憫だな、と平山さんはいつしか思うようになった。

間違っても霊に同情してはいけないよ、と祖母に言われていたが平山さんの中で憐憫の情が膨れ上がりある日、あの女の霊に話しかけてみようと決意した。毎晩見かける内に親しみに近い感情が芽生えたのかもしれない。
あのまま放ってはおけない。
自分が話し相手になり少しでも彼女を縛り付けている未練から解放し、成仏できる手助けになれればいい。
平山さんは仕事帰りのある晩、あの電柱の場所で車を止めて窓を開け声をかけた。

「ねえ。……よかったら、乗る?」

女の霊は暫くなんの反応も示さなかったが、やがて近づきスゥ…とドアをすり抜けて助手席に座り込んだ。
平山さんはゆっくり車を発信させた。

「いきなり話しかけてごめんね。ビックリしたよね。実は以前からあなたを見かけてて、すごく寂しそうで放って置けなくてさ。私でよかったら話、聞くよ?」

『…………』

女は無言のままだ。相変わらず俯いていて顔は見えない。とりあえず話しかけ続ける。

「歳は幾つなの?」
『………』
「名前は何ていうの?」

『………』
「いつからあそこにいるの?」
『………』

会話の糸口を掴もうと話題を振るも、女は頑なに口を閉ざしており取り付く島もない。
ドライブしながらの方が気が紛れるだろうと考え、平山さんはアパートへ帰らずそのまま車を夜道を走らせながら引き続き女の霊と心を通い合わせようと懸命になった。
そして大通りを走行中に変化が訪れた。
ウッ…ウウ……ウウッ……と声がする。横に目を向けると女が身を震わせ嗚咽を漏らしていた。
「どうしたの?大丈夫?」
『シニタクナカッタノニ……ナンデ……ワタシハワルクナイノニ……』
蚊の鳴くような声でボソボソと呟き始めている。
まだ若い彼女にはやりたい事や将来の夢が沢山あって、それが理不尽な事故に合い一瞬にして泡と消えたそのやり切れなさ、悔しさはやはり想像を絶するものがあるのだろう。事故を起こした人を今も恨んでいるはずだ。そんな彼女に初対面の私がかけるべき言葉は果たしてあるのだろうか。何を言っても白々しく聞こえるに違いない。
平山さんはひたすら思案する。
車は赤信号で止まった。

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コメント(5)
  • 怖すぎる!

    2024/02/29/13:04
  • 最近読んだなかで、一番怖い。

    2024/03/01/14:22
  • 凄く怖かったです

    2024/03/16/11:49
  • いいね

    2024/04/24/13:25
  • まさに悪霊

    2024/11/01/22:31

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