夜行列車
投稿者:綿貫 一 (31)
厭だ。
女の顔が、幽霊のようにガラスを透けて部屋の中に、なんてことはなかった。
ただ黙って、向かい合っている。
それがたまらなく厭だった。
不意に列車が揺れた。
どうやら停車を終えて、動き出したらしい。
女の姿が徐々に窓の外に移動していく。
助かった。
身体から張り詰めていた力が抜けていく。
と、
――バン!
女の姿が見えなくなった直後、窓ガラスに何かがぶつかった大きな音がした。
僕は反射的に身をちぢこませる。
ゆっくり、音のした方を見る。
窓ガラスの上部、天井に向かってカーブを描いている部分に、白い跡が付いていた。
手のひらの跡だった。
………
………
………
いつの間にか、オーディオの音は元に戻っていた。
ドアも何事もなかったかのように開いた。
僕は手形が残った窓のある個室に、朝までいることはどうしてもできなくて、ミニサロンという展望車に移動した。
この車両は2階建てにはなっていなくて、窓の高さは他の普通の電車と変わらない。
誰か、他の乗客がいてくれればよかったのだが、自分以外利用者はいなかった。
窓の前にカウンター式の席があり、そこに腰を下ろして僕は震えていた。
厭なものを視てしまった。
あれは、自分しか視ていなかったのだろうか。
同じように部屋から飛び出してきた人間がいない以上、そうなのかもしれない。
目の錯覚ということにしたかったが、部屋を出る際に振り返った窓ガラスには、やはり手形が残っていた。
列車の外側から、二階のあの部屋の窓ガラスに向かって、
夜行列車懐かしい。
とても面白かったです。
先日サンライズ出雲に乗車したので、室内や窓の感じなど情景が浮かびました。
文章力に惹きつけられました