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妖怪・風習・伝奇

綿貫 一さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

夜行列車
長編 2023/12/10 13:54 8,753view
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厭だ。

女の顔が、幽霊のようにガラスを透けて部屋の中に、なんてことはなかった。
ただ黙って、向かい合っている。
それがたまらなく厭だった。

不意に列車が揺れた。
どうやら停車を終えて、動き出したらしい。
女の姿が徐々に窓の外に移動していく。

助かった。

身体から張り詰めていた力が抜けていく。
と、

――バン!

女の姿が見えなくなった直後、窓ガラスに何かがぶつかった大きな音がした。
僕は反射的に身をちぢこませる。
ゆっくり、音のした方を見る。
窓ガラスの上部、天井に向かってカーブを描いている部分に、白い跡が付いていた。

手のひらの跡だった。

………

………

………

いつの間にか、オーディオの音は元に戻っていた。

ドアも何事もなかったかのように開いた。

僕は手形が残った窓のある個室に、朝までいることはどうしてもできなくて、ミニサロンという展望車に移動した。
この車両は2階建てにはなっていなくて、窓の高さは他の普通の電車と変わらない。
誰か、他の乗客がいてくれればよかったのだが、自分以外利用者はいなかった。
窓の前にカウンター式の席があり、そこに腰を下ろして僕は震えていた。

厭なものを視てしまった。
あれは、自分しか視ていなかったのだろうか。
同じように部屋から飛び出してきた人間がいない以上、そうなのかもしれない。
目の錯覚ということにしたかったが、部屋を出る際に振り返った窓ガラスには、やはり手形が残っていた。
列車の外側から、二階のあの部屋の窓ガラスに向かって、

3/5
コメント(3)
  • 夜行列車懐かしい。
    とても面白かったです。

    2023/12/13/01:42
  • 先日サンライズ出雲に乗車したので、室内や窓の感じなど情景が浮かびました。

    2023/12/21/15:47
  • 文章力に惹きつけられました

    2024/01/04/22:37

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