夜行列車
投稿者:綿貫 一 (31)
長編
2023/12/10
13:54
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――バン!
僕は目を閉じるのが恐ろしく、ただ流れる夜景を眺めていた。
窓ガラスに映った自分の姿。
その背後に、背が異常に高い女が、腰を折って窮屈そうに立っている――。
そんな想像に、僕は震えた。
夜が長かった。
朝は来るのか。この列車は岡山に着くのか。
そんなことを、とりとめもなく思った。
………
………
………
気が付くと、時刻は午前3時を回っていた。
いつの間に1時間半も時間が過ぎたのだろう。
感覚がおかしい。
時間が、濁った池の水の中に棲むアメーバのように、気味悪く伸びたり縮んだりしている。
やはり、この夜はおかしい。
いや、おかしいのは自分の方なのか。
間もなく、列車は滋賀県米原に運転停車する。
列車がゆっくりと速度を落とす。
駅の明かりが近づいてくる。
ああ、この夜行列車のいいところは、東京を飛行機や新幹線より遅い時間に出発して、どんな交通手段よりも早い時刻に着けるところだ。
ミニサロンの照明がパチパチとまばたきをする。
開かないはずの窓から、冷風が吹き込んできたかのような寒気。
悪寒。
僕があれを見たのは1時間半前、愛知県だ。
今は滋賀県。
列車は、ゆうに100キロは走っている。
だから、いるわけがない。
いては、いけない。
ゆっくりと無人のホームに滑り込む列車。
僕の乗る展望車の窓の外に、
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夜行列車懐かしい。
とても面白かったです。
先日サンライズ出雲に乗車したので、室内や窓の感じなど情景が浮かびました。
文章力に惹きつけられました