ごめんで済むなら呪いはいらない
投稿者:Mine (24)
広げてみるとただの紙ではなく、人の形に切り抜かれていて表と裏が両方真っ赤に塗り潰されていました。
そして表と裏、それぞれの中心には同じ人物の名前が奇怪な書体で書き込まれていました。
イチカワ ナツミ
………え?
……私の名前。
巾着袋には更にもう一枚切手サイズの紙切れが入っており、見ると私の写った写真、恐らくクラスの集合写真から私の部分を切り抜いた物でした。
頭が真っ白になって脱力し、床にへたり込みました。一体何が起きているのかさっぱり分かりません。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
ふと気付くと、浴槽の縁を内側から青白い二本の手が掴んでいます。
そこからゆっくりと頭が持ち上がって来て、浴槽の中からカオルがこちらを凝視してきました。
蝋燭の火に照らされた表情は口元はニヤニヤと笑いを浮かべていましたが、見開いたその双眸には激しい負の感情が宿っているようでした。
「バレたか(笑)」
それだけ言うとカオルは姿を消しました。
呆然自失状態から我に返った時、蝋燭は半分近くまで燃え進んでいました。
そして半ば霞がかった頭で、全てを悟りました。
カオルが呪いたいほど憎んでいたのはタチバナではなく、私だ。
胸の奥底に封じ込めて”無かった事”にしたはずのあの日々の記憶が、私の意思に反して浮かび上がってきました。
あの頃カオルがいじめられていた時、私は何をしていた……?
そうだ………見て見ぬふり。
自分がターゲットにならない様にひたすらカオルから距離を取っていたっけ。
私に幾度となく向ける「助けて」の眼差しに気づいていながら私は徹底的に口もきかず、目すら合わせない様にして赤の他人を装ってた。
……それだけじゃない、タチバナ達がカオルを罵倒した時、一緒になって笑った時もあったっけ。他の皆んなと同じ様に。
母親にいじめの件を話したけど、学校に連絡してとまでは私は頼んでなかった。
自分が告げ口したと知られたくなかったから。
どれほどカオルは絶望しただろう。
小さい頃からそばにいた親友の私に裏切られるのは、タチバナ達からのいじめの比ではない程にカオルの心を苛み、切り刻んだことだろう。
ああ、そうか。
カオルにとどめを刺したのは他でもない、この私なんだ。
ほんの少しでも寄り添っていれば、違った未来があったはずなのに。
「うわあああああああああああああ……!」
主犯格は許せないが、見て見ぬふりされ助けてくれ無かった事の方残酷な事なのですね。
いじめた生徒は、自殺に追い込んでしまったと自覚すら持たず、のうのうと生きている人達がいるのも現実です。
いじめの無い世の中になればと考えさせられる内容でした。
怖かったです。
人間が一番怖いです
いじめをする人間は悪いけどいじめられる人間も悪いみたいな事をいう風潮があるかぎり、いじめはなくならない。
巾着袋が出てきた時点で、何となくオチが見えましたが、この手の話、好きです。
いや、これ、やはりカオルさん、呪う相手の順位、間違っています。
親友のナツミさんだって、自分を助ける手段を模索し、悩み抜いたんだし。
下手に間に入ったら、自分が標的になる危険があるから、傍観せざるを得なかったのは、ギリギリの決断だったわけです。
そのことは、ナツミさんだって、わかっていたでしょ?
カオルさんが、ナツミさんの立場だったら、やはり、同じ行動を取ったのではないでしょうか?
むしろ、カオルさん、「ナツミさんが、悩んでいたの知っていた。私のために、悩ませてしまって、ごめんなさい。それが言いたくて、夢に出て来た。」
そんなストーリーだったら良かったのにと、思いました。
再度、強調します。
真に憎むべきは、タチバナさんをトップとするイジメの実行グループのメンバーたち。
カオルさん、そこは、しっかり、認識してほしかったです。
蛇足ですが。
今、ほとんどの市町村には、いじめの被害を受けている生徒のための、駆け込み寺のような公機関が設置されています。
朝、登校するフリして家を出て、そこに行けば、保護してもらえます。
さらに、極端なこと言えば。
市町村により、その機関の権限には差がありますが。
例えば、カオルさんの場合、その公機関で、以降、授業を受け、そこから高校も受験でき、義務教育を卒業したことにもしてもらえるなんて可能性もありました。
そういうことを、知っておくことが、大切だと思いました。
これ、真の敵が誰か?、復讐するならするで、その復讐相手はまず誰なのか?の正しい判断がつかない、ある意味愚かな話なのでは?
カオルだって、ナツミの立場になれば、果たして、「自分がターゲットにされてもいいから、親友を助ける」という行動をとれたかどうか?
悩み抜いた結果、ギリギリの判断で、傍観を決め込んだ可能性も高かったのでは?
カオリは確かにいじめの被害者ですが、ナツミにとっては・・・
「ナツミが悩んでいたの、そして私を助けられなくて後悔しているの知ってるよ。私のことで苦しませて、ごめんね」というスタンスで、夢の中に表れてくれるくらいの親友ではなかったのですね・・