初めてはっきり見た

しかし、帰り道がいつもより格段に嫌な感じがする。自転車を飛ばしている最中、いつも何も見なかったはずなのに黒いモヤ達が見えていた。
「間に合え…間に合え…」とつぶやきながら自転車を飛ばして自宅に到着するとさすが我が家は格安事故物件。ポルターガイストとまでは行かないが家に入るとドアが閉まる音や走り回る音がする。しかもいつもより騒がしいのだ。なんとなく居るとしか感じない程度の霊感のはずなのに今日はだいたいどの部屋に居るかすら分かってしまう。

「騒がしくしてゴメン！行ってきます！」となんとなく謝らなくてはならない気がして車の鍵を引っ掴んで車に乗り、エンジンをつけて車庫から車を出したところ、ｯﾊﾟｧﾝ!!と音を立てて店長から借りた数珠が「弾け飛んだ」。
パチパチと車のガラスに当たり、音を立てて跳ね回る数珠を避けて、「とりあえず神社に行かなくては」と思い、神社へ車を飛ばす。

いつもより荒い運転で行った為想定より早く着いた神社の鳥居の前で既に神主さんは色々な道具を持って待っていた。

「お疲れ様Oくん、とりあえずお店の方に行こう！」
とあなた本当にその服でよく動けるなと突っ込みたくなる速度で20段近くある階段を降りてきた神主さんは助手席に乗り込むが早いか指示を飛ばしてきた。

神社の駐車場で切り返し、喫茶店に戻る最中、神主さんが居るからか行きとは打って変わって何も見ることはなかった。

喫茶店に戻ると車の自動ドアを開け、直ぐに乗り込める状態にすると店長含め5人が乗り込んできた。店長さんは女性と一緒に3列目へ、他の3人は2列目に座った。「いいかい、4人ともは絶対に目を開けるんじゃないよ。下を見ていいと言うまで動かないで。Oくんは大きめの音量でテレビか何かつけて！」とテレビをつけろと言っておきながら自分で夜のテレビ番組をつけて音量調整までする神主さん。あなたなんで知ってるの。

ここからは10分程で神社に着く。

走っている最中、前方には何も見えなかったのだが突然、コンコンコン……ガリガリガリ……と窓を叩いたり引っ掻いたりする音が鳴った。時速30キロも出ていないとはいえ、それでも走行中の車にそんなことをするのは人間ではまず不可能。

少し騒がしくなった車内に反応してか次は

───ガァァン！！

と思いっきりタックルするような音がし、車が揺れた。
ブレーキを踏んで止まる訳にも行かず、むしろ追いつかれてはならないとアクセルを強めに踏んだ。
しかしまだ窓を叩く音は鳴り止まず、ナンバープレート辺りを蹴ったり、逆の窓を叩いたりと反応を楽しむように激化していく。

「お父さん！そろそろ神社に着きますので準備お願いします！」と先代神主さんと電話していたらしい声を荒らげた。

この時、とうとう運転席横のサイドミラーがバキッと音を立てて畳まれた時はもうこの町から出ていこうかなと本気で思ったほどだった。

後部座席で叫ぶ4人に混ざって私自身も「クソ野郎が！弁償も出来ねぇクセに車殴るな！！」とか悪態をついていた気がする。

神社に着いた時、神社の関係者及び先代先々代(今の神主さんのお父さん、おじいさん)が待ち構えていた。

店長さんは自力で歩いて出てきたが、他の4人は神社の人達に布のようなもので隠されるようにした上で車から引きずりおろされた。

私も運転席から出るついでに車のサイドミラーを見ようとすると先々代の神主ことおじいさんが「こらO！そんなもん見とる場合か！はよこっち来んかい！」と80過ぎてるのに元気な声と拳を頭に叩き込んできた。

某漫画のゲンコツ中将かアンタは。

実際、そのおじいさんがそういう行動を取ったのは車の右側から上にかけて店にいた「アイツ」がへばりついていたかららしい。
私の事ガン見してたらしいのでだいぶ背筋が凍った。

さて、お祓いに関しては企業秘密？的なものになるので伏せるが流れだけ説明するとまずどこに行ったのかと、店で店長が聞いたようなことを神主さんが聞き出した。その間、先代神主(神主のお父さん)は私の車をお祓いしてくれていたらしい。
店長と私にもどんなものがいて、どんなことが起こったのかを聞き出す。
そこから「アイツ」が悪霊や怨霊なのか、それとも妖怪的なものなのかを推察するとのこと。

そしてお祓いがスタートした。

あたりまえだが神社にも格があり、神様でもどうにもならないものは神様が拒否する。今回はそういった兆しがなかったためそこでお祓いすることになっている。しかし問題なのは夜の神社というものは魔物の住まう場所と言われるが、それは「神様でも侵入を拒めないぐらい強いやつが入り込んでくる」ということらしい。
お祓いを始めればまず間違いなく神社の鳥居前で待っている「アイツ」は何かしらアクションを起こす。
その場合現役神主さんだけでは人手が足りないため先代さんと先々代さんにも来てもらったそう。