見てるだけですから

私のお店に私の学校の生徒が来るようになった時期がある。
顔見知りの奴らには「来たのなら珈琲の1杯でも飲んでけ。」と言ってしっかり飲み食いさせてたりした。

そういう日が続いていた時、同じ学校の生徒かは分からないが何人か若い人が新しく店に来るようになった。
私が非番の時も来ていたということをほかのスタッフから聞いていた。

その中でも男性と女性の方がほぼ同じタイミングで来ることがあった。
だいたい来るのも帰るのも同じくらいのタイミングなので知りないなのかもしれない。

ある日、それなりに雨が降っていた時、男性の方だけお店に来た。

午後6時半とかで、簡単に軽食だけ食べて持ち帰り用メニューをいくつか買って、帰っていかれた。

その途中、その男性と同タイミングで来られる女性の方が外で傘をさしているのに気づいた。
女性はそのまま傘を閉じて店の中に入ってきた。
「いらっしゃいませ。」と声をかけたが特に反応もなく、そのまま持ち帰り用のメニューを眺めてた。

その後、男性の方が会計を済ませて出ていったあと、女性は私にメニューを渡した。
「お決まりになられましたか？」と聞くと女性は
「見てるだけですから。」と言ってそのまま帰って行った。

その後、男性はほぼ全く来なくなったが、女性の方はそれなりの頻度で来ていた。
しかも、従来より長く店にいるようになった。

たまに男性が来るとそそくさと荷物をまとめて店を立ち去って行った。
やがて、2人とも店に来ることは無くなった。

メニューを私に返した時「見てるだけですから。」と言ってきた。「今日は食べたいものがなかったので。」とかではなく「見てるだけ。」と。

後々考えたのだがおそらく女性は男性のストーカーかあるいは恨みでもある間柄だったのだろう。
「見てるだけ」と言ってから何かがあったのだろう。

帰り際にたまに微笑んでいた女性と男性の間に何があったのだろう。