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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

描く像、見える影
長編 2023/03/10 21:30 2,158view

「ふとした瞬間に思うんだ。俺が見てるのって何なんだろうって」

ピタリと、スケッチブックを捲る手を止めた。
空調が整った室内。窓枠は暖められた部屋の空気と刺すような冬の外気との温度差に、パキパキと音を鳴らしている。

「何でコイツらこんな姿してんのかなって」

部屋の主である、炬燵の向かい側に伏す友人は視線を卓の端から端まで滑らせた。いわく、彼が見る存在は『人間の姿のもの』がほぼいないのだと。

ふわふわと漂う綿毛のようなもの、昆虫より多い足で這う影のようなもの、アメーバのような粘着質な塊のようなもの。そんなおよそ何とも言い難い存在が、小さな頃から忙しなく視界を過っていたが、それらの容姿を言語化できなかった当時の友人はスケッチブックにその姿を描き記した。

獣にすら似つかない存在たちに対する「お前たちは何者だ」と問いたい気持ちを白紙に描き殴っていった。今なお冊数が増え続けるそのスケッチブックは現在、友人自身が許可した限られた人間だけに見せられている。

直近のナンバリングのスケッチブックをパラリと捲り、友人の視線を目で追った。
今この瞬間も、彼の視界では卓の上を何かが横切ったのだろうか。それとも何かを想起する過程で視線を走らせただけだろうか。

「お前から見て、ソイツらって何だと思うの」

「幾つかは文献で見た妖怪や、西洋の妖精に近しい容姿のものもいるが…」
「妖怪に妖精か…じゃあやっぱ幽霊とかとは別種なのかね」
「いや、そう定義するのは早いな。現段階では可能性は無限にある。それに、…こういった存在に対して、早期に定義して後の思考を狭めるのは危険だ」
「…そっか」
「言っておくが、君がこれらの存在を見ている事実を疑ってはいないからな」
「それも大丈夫。でなきゃスケッチブック見せてないって」

その無限の可能性とやらを踏まえて、聞いてほしいんだけど。そう友人はおもむろにスケッチブックを眺めながら語り始めた。

「同じバイト先の後輩の女の子で、普段から『私霊感強くて、そういうの結構見えちゃうんです』って周囲にも言ってる子がいたんだ」

「その後輩が見ているのはいわゆる霊的な存在か?」
「だと思うよ。その子も『霊』って言ってたし。最初聞いた時驚いたわ。『他人に言うんだ』って。俺このスケッチブックを親が見た時のあの、『なんて趣味の悪い絵を描くんだコイツ』って言いたげな目が忘れられなくて。身内でこんな反応されるんだから他人からはどんな目で見られるかって思うとあんなに大っぴらには言えない」

「大抵はそうだろう。…しかし、その後輩は公言してたんだな?」
「やっぱ周りも怖がったり気味悪がったりしてたけど、その子は気にしてなかった。何なら『私、見えるだけじゃなくて、お祓いもできるんです』って振れ回ってた」
「お祓い?」

反芻した言葉に訝しむような音が乗ってしまったが、友人は構わず続けた。
後輩本人は「自身の家系は数代前は祓い屋を生業にしていて、その素質をある団体に買われ修行を積んで祓う術を習得した」のだと。

その話をする頃にはバイト先の同僚たちの中で後輩はいわゆる『不思議ちゃん』の認識で、後輩が言う霊感云々も気持ち半分で聞き流されていた。友人も表向きにはその話題に興味が無いように振る舞っていたが、内心では無視しきれずにいた。

「お前が持ってるそのスケッチブックの…そのページに描いてあるヤツ。後輩はソイツを指差しながら『小さな男の子の霊だ』って言ったんだ」

友人が指差した、此方の手の中のスケッチブックのページには、四角い板のようなものが組み合わさった塊が描かれていた。古い形の書見台のような見目だが、書見台を知らないらしい友人は「棚のような形」とメモ書きを添えている。

「店の端に置いてあるみたいに見えてたヤツだったんだけど、後輩は『タチの悪い怨霊だ』って言って…なんだろうな、呪文みたいなのをブツブツ言って…そしたらソレ、バキッて割れて消えたんだ」
「呪文?」
「その団体から教えてもらったんだって。指をこう、縦と横に動かして…呪文は何言ってるかはわかんなかった」
「…それ以降は、この描かれているものは…」

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