バスから降りたら知らない町だった
投稿者:すもも (10)
何が気になるのだろうとおじさんを見ると、確かに私も何か違和感を覚えました。
至って普通に受話器を片手に話し込んでいる様子に見えるものの、男性の言うようにその姿は何かがおかしいのです。
ただ何がおかしいのか分からずに男性と二人で「うーん」と首を傾げていると、不意におばさんが「今はコードが無くても電話できるんですねえ」と呟く。
そうだ、コードがないんだ。
あのおじさんは黒電話を使用する際、中央の盤面を指で回していたが、受話器と本体を繋ぐコードが見当たらない。
もしかしたら今の時代、親機と子機のように独立した黒電話が発売しているのかもしれませんが、私から見てもやっぱりコードの無い黒電話は初めて目にするもので、男性も「あれ繋がってるのか?」と不安げに呟いていました。
しばらくしておじさんは電話を置き、私達のもとにやってくると「二、三十分くらいで来るそうだ」と伝え台所へ向かいました。
おじさんの申告が本当なのかは三十分後にならなければわかりません。
私と男性は息を呑むように互いを見ては小声で「本当に呼んでくれたのか?」「あの電話は本当に繋がってたか?」「もしかしてこの人は悪い人なのでは?」という不安を漏らしていました。
そしておじさんは台所から戻ってくるとお茶を人数分差し出し、「時間までくつろいでろ。俺は畑仕事に行ってくる。タクシーが来たらそのまま帰ってもらって構わん」と不愛想に告げ、家を出てきました。
思わず三人で慌てて「何から何までありがとうございます」とお礼を言いましたが、おじさんは振り返る事もなく玄関を出ると、トラクターで家を立ちました。
これは罠なのかと疑った気持ちが少し罪悪感で傷みましたが、私達はおじさんの好意に甘えて再び安堵の息をつき、お茶を頂きながら時間を潰していました。
まさかここまで何も無い廃村だとは思わなかったので、こんな事になるならあの時バスを降りずに運転手に相談すればよかったと後悔しましたが、案外こういった非現実を味わうのも悪くないと、心に余裕も出てきていました。
しかし、疲労が溜まっていたのか私はいつの間にか眠ってしまい、烏の鳴き声で飛び起きると、気が付けばあたりはすっかり夕暮れ。
和室には同じように寝入ったおばあさんと男性が横になってたので、体を揺すって「起きてください!」と起こしました。
二人は目を摩りながら「あれ?」とそれぞれ寝惚けたように辺りを見回していましたが、私の顔を見て自分が置かれた状況を思い出したのか「あっ」と口を開いて、男性の方は立ち上がって窓から外を見ました。
「もう夕方?タクシーは?」
男性は振り返って私に問い詰めますが、私も二人と同じように眠ってしまい今起きた事を伝えると「マジか…」と落胆していました。
ですがすぐに卓袱台に置かれたお茶を見ると「なんかこれ飲んでから眠気が襲ってきたような…」と不吉なことを言い出します。
「これ何か入ってたんじゃないか…?」
そんなまさか…。
確かめる術もない私達は再び不安に駆られてしまいました。
そもそもタクシーは来たのでしょうか。
それにおじさんはあれから一度も戻ってきていないのでしょうか。
男性は玄関を飛び出して車が止めてあった場所を確認すると、そこにはトラクターどころか軽トラックも置いて無かったそうです。
それから私と男性はおじさんが使っていた黒電話を確かめてみると、案の定、コードはありませんでした。
それに受話器を取ってみても音が一切しないのです。
そう、そもそも電話が繋がっていないどころかコンセントのコードも無かったのです。
「あいつ俺達に何するつもりだったんだ…?」
あのおじさんは確かに私達の前で電話をしていましたが、あれは全て一人芝居だった事になります。
タクシーを呼んだのは嘘。
お茶には睡眠導入剤を入れた疑い。
車は全て隠されてすぐに脱出できないようにされています。
おじさんの目的は分かりませんが、私達に危害を与えないとはどうしても思えない状況でした。
読み応えがあり引き込まれました。とても文才がおありと存じます。
眠りがスイッチになって、不思議な世界が同時間軸に存在しているのかも?という好奇心が刺激されました。
電車やバスなど交通手段で意図せず異世界に移動してしまったお話は、きさらぎ駅同様、とても興味深いです。
きさらぎ駅と同じ太鼓の音。
3人とも無事に帰還され良かったです。
こういう話わくわくするね
おばあさんは平屋で待っていて、無事だったのか気になる…
これ映画の「きさらぎ駅」と、ほぼストーリー同じじゃない?
単に電車がバスになっただけで。
きさらぎ駅と違ってハッピーエンドで良かったじゃん
その場所、何か曰くみたいなモノがあったりするのかな? それで白昼夢みたいなものを偶々、寝ていた三人が魅せられたみたいな事なのかな、と思ってね。 なんか、現代回顧版みたいな話しだよな〜。
展開に無理がなく、情景が浮かんできます。
おいおい、運転手に聞けよ。ってか、一番怪しいじゃん。
引き込まれました。どういう展開、どういう結末なんだろう・・・と。読んでいてここまでドキドキするのは私としては珍しく、久々に良質の怖い話を読ませて頂きました。ありがとうございました。
とても面白かったです
やっぱ異世界があるとしてもこんな感じに似てるけど常識が全く通じない異様な場所なのかな
あんななろう系のファンタジー系じゃなく
面白かった。
唯一思うのはその状況だったら最後3人で大騒ぎするでしょ
そそくさと降りるかなぁ
おっさんの意図が気になるな
最初は危害を加えようとしてるのかと思ったけど、村民達は三人が来てる事を聞いてなかったっぽいし眠らせて家から出ないようにする事で夜現れる村民達と遭遇させないよう守ろうとした可能性もある…のか?