バスから降りたら知らない町だった
投稿者:すもも (10)
そんな折、前方からトラクターというのでしょうか。
赤いボディに車高のある、農業でよく見かける車が道路を闊歩しているのを見かけると、ちょうど私達の方へ向かってきているようでした。
ここまで既に一時間弱。
ようやく第一村人に出会えた私達は心の底から笑みを浮かべ、男性が「おーい」と手を振りながら接触を試みました。
私達の近くにトラクターが停まると、中からいぶし銀なおじさんが降りてきて、私達を睥睨します。
格好は農業の最中なのか、簡易な白地のシャツを腕まくりして、上着を脱いで腰回りに巻き付けた作業着姿。
そして顔立ちはかなり人相が悪く、一瞬ヤ〇ザに遭遇したと思って焦りました。
そんなおじさん相手でも男性は「すみません、我々はバスでやってきて…」と私達が置かれた状況を流暢に説明し出し、その姿を見てやっぱり社会人は対面で頼りになるなと思い、内心「おお~」と感嘆して任せっきりでした。
しかし、そんな男性の交渉を無碍にするように、おじさんは「ここにゃ誰も住んでねえよ」と面倒くさそうにあしらうのでした。
じゃあ、おじさんは何でここに?と思ったものの、強面のおじさんに意見する勇気もなく、私は男性の後ろから成り行きを見守りました。
「じゃ、じゃあ、外と連絡が取りたいので申し訳ないのですが電話をお借り出来ませんか?せめてタクシーか何か呼んで頂くわけにはいきませんか?」と男性は食い下がります。
そんな男性の気迫に降参したのか、おじさんは「…じゃあ、車とってくるからおまえらこの道を真っ直ぐ進むか、そこで待ってろ」と言い、トラクターに乗り何処かへ走り去りました。
車を取ってくると言ってたので、私達全員が乗れる車で迎えに来てくれると受け取っていいのでしょうか。
男性は「やった、これで何とか戻れる」と胸をなでおろしていました。
おばあさんも「助かったわ」と膝を摩っていたので、私は「大丈夫ですか?」と声を掛けえると、おばあさんは「もう少しだから頑張らんとね」と頑張る姿勢を見せていました。
さすがにここで待ちぼうけというのも退屈だったので、おばあさんの膝に負担がない程度にゆっくりと道路を進んでいると、およそ三十分くらい経った頃に一台の軽トラックがやってきました。
私達の真横に停車すると、運転席からヤ〇ザ顔のおじさんが顔を覗かせて「荷台に乗ってくれ」と親指で合図します。
この際贅沢は言えないし、法律どうこうも気にしないのが吉。
私達は不安げに顔を見合わせた後、荷台に乗り込みました。
案外、荷台の乗り心地は良く、道が悪いせいで揺れはするものの山々に囲まれた謎の集落を見渡せばそれなりに絵になる場所だなと呑気に風景を楽しんでいました。
軽トラが到着したのは、これまで何軒か見かけた小屋に似た平屋で、おじさんは私達を降ろすと擦りガラスが嵌め込まれた古いタイプの玄関戸を開錠して「上がって適当にくつろいでけ。タクシー呼んでやる」と不愛想に廊下に置かれた黒電話の受話器を取りました。
黒電話にびっくりしつつ家にお邪魔すると、玄関側の和室の戸が開いてたのでここで休めと言う事かと解釈し、私達は恐る恐る部屋に上がりました。
何の変哲もない六畳程度の和室。
箱型テレビに卓袱台。
和箪笥に使用感満載の畳。
昭和そのものを再現したような家でしたが、私はようやくゆっくり寛げるという悦びから大きく安堵の息をつきました。
おじさんも口や人相はぶっきらぼうだけど親身になってくれている。
おばあさんと男性も協力的で、本当に一人じゃなくて良かったと心から思いました。
「助かりましたね。あとはタクシーが来てくれるまでやること無いですけど」と冗談交じりで二人に話しかけると、男性は訝しむように廊下にいるおじさんを見ていました。
「どうかしたんですか?」
「あー、いや、何か気になって…」
読み応えがあり引き込まれました。とても文才がおありと存じます。
眠りがスイッチになって、不思議な世界が同時間軸に存在しているのかも?という好奇心が刺激されました。
電車やバスなど交通手段で意図せず異世界に移動してしまったお話は、きさらぎ駅同様、とても興味深いです。
きさらぎ駅と同じ太鼓の音。
3人とも無事に帰還され良かったです。
こういう話わくわくするね
おばあさんは平屋で待っていて、無事だったのか気になる…
これ映画の「きさらぎ駅」と、ほぼストーリー同じじゃない?
単に電車がバスになっただけで。
きさらぎ駅と違ってハッピーエンドで良かったじゃん
その場所、何か曰くみたいなモノがあったりするのかな? それで白昼夢みたいなものを偶々、寝ていた三人が魅せられたみたいな事なのかな、と思ってね。 なんか、現代回顧版みたいな話しだよな〜。
展開に無理がなく、情景が浮かんできます。
おいおい、運転手に聞けよ。ってか、一番怪しいじゃん。
引き込まれました。どういう展開、どういう結末なんだろう・・・と。読んでいてここまでドキドキするのは私としては珍しく、久々に良質の怖い話を読ませて頂きました。ありがとうございました。
とても面白かったです
やっぱ異世界があるとしてもこんな感じに似てるけど常識が全く通じない異様な場所なのかな
あんななろう系のファンタジー系じゃなく
面白かった。
唯一思うのはその状況だったら最後3人で大騒ぎするでしょ
そそくさと降りるかなぁ
おっさんの意図が気になるな
最初は危害を加えようとしてるのかと思ったけど、村民達は三人が来てる事を聞いてなかったっぽいし眠らせて家から出ないようにする事で夜現れる村民達と遭遇させないよう守ろうとした可能性もある…のか?